「経済か命か」は誤った二分法

— 経済と命の相関に着目をすべし —


国際環境経済研究所主席研究員

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 政府のエネルギー・環境会議が2030年を見据えたエネルギー政策を検討すべく国民的議論を求めている。国民の意見が直接的に政策に反映されないことを不満とする意見もあるが、最終的にエネルギー政策がどのようになるにせよ、議論を通じてその選択によって得られるものと失うものが意識されることにこそ意味がある。むしろ国民各層が主体的に考える経験を共有するための貴重な機会として前向きに捉えたい。

 さて、この議論や原子力発電所の再稼働等に関連して「経済よりも命を」といったスローガンを目にする。このスローガンは主に脱原発を求める文脈で使われており、「命」という語は「原子力によって奪われる命」を指しているようである。
 原子力の負の側面についてはあえて触れるまでもないが、今回の事故では現地の方々の生活が現に破壊されている。風評被害や差別などの人災もあると聞く。また、健康被害を伴う事故が将来にわたって起こらないとは断言できないとの観点もある。そのような状況の下で、命が大切という考え方は誰もが共感できるだろうし、二者選択の表現もわかりやすい。

 しかしながら、果たして経済と命はトレードオフの関係にあるのか。経済を犠牲にすると命が守られるのかという点には少々違和感がある。

 まず、下図は横軸を国民ひとりあたりGDP(米ドル、対数表示)、縦軸を平均寿命(いずれも2010年のデータ)をとして世界各国をプロットしたものである。(点と国との対応を示しておらず申し訳ないが、傾向として把握してほしい)

データ出典:世界銀行(http://data.worldbank.org/

 これをみると、ひとりあたりGDPと平均寿命には相関関係が認められる。無味乾燥なデータだけではわかりづらいかもしれないが、経済水準が高い国の国民は長寿という傾向があるといえばイメージが湧くだろうか。
 相関関係の存在は必ずしも因果関係を意味するものではない。しかし経済的な豊かさが寿命の延長につながっていることが示唆されると言ってよいだろう。