発送電分離の正しい論じ方


Policy study group for electric power industry reform

印刷用ページ

単純さを廃し、慎重かつ謙虚な議論を

 発送電分離は注目される論点なので、メディアで報じられることも多いが、メディアは「法人分離か機能分離か」「抵抗する電力に追い込む政府」といった単純な二分法、二項対立で報じがちだ。これでは議論は深まらない。発送電分離には、垂直統合の経済性への影響、現状のシステムに存在している具体的問題、中立性確保策により見込まれる効果等を睨みながら、どの業務を対象としてどんな規律を課すか、という幅を持った議論が必要なのである。

 電気はインフラ中のインフラである。水道、鉄道、通信等インフラと呼ばれるものは他にもあるが、これらいずれも電気がなければ機能しない。電力システムの設計を誤って安定供給が損なわれることになれば、社会的影響は極めて大きいから、分離(=市場機能の活用)の制度設計は、慎重行われなければならない。
 電力システム改革の失敗例として、電力危機まで引き起こしたカリフォルニア州の事例がよく上げられる。これについて、後知恵で制度設計の失敗である、というのは簡単なのであるが、あれはあれで当時のBest & Brightestな人々によって設計された制度である。それがあそこまでの状況になることを事前に予想していた人はいなかったことが重要である。制度設計には、慎重さに加え、謙虚さも必要だ。

カリフォルニアの失敗のとらえ方

 カリフォルニアの失敗理由として、価格メカニズムの活用の失敗をあげる識者が多い。具体的に言うと、「電力不足で卸電力市場の価格が高騰していたにもかかわらず、小売価格が凍結されていたため、最終消費者に電力の需要を抑制するインセンティブが働かなかった」というものだ。理論経済学者は、この一言でカリフォルニアを総括してしまいがちである。つまり、小売価格を上げれば良かったということなのだが、他方で、電力危機の中で、経営立て直しのため電気料金の値上げを州当局に打診した大手電力会社PG&Eが、政治的批判を恐れた当時の州知事に、部分的にしか値上げを認められなかったという事実もある。経済理論上は、電力価格を無限大まで上げられるなら、電力不足でも需給を均衡させることは可能だ。しかし、これが現実世界で実現可能であるかは別問題で、実現可能でなければ解決策にならない。

 このことは、昨年の東日本における電力不足についても言える。昨年東日本で実施された計画停電と電力使用制限は、硬直的・強制的と経済学者を中心に批判が強い。他方、複数の経済学者が電力不足対策のため、ピーク時間帯の電気料金を上げるべきと主張していたが、政治がこれを取り上げることはなかった。例えば、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が、2011年3月29日付けでダイヤモンド・オンラインにアップした記事は具体的な数字もあげていた。電気の価格弾力性を過去の実証分析をもとに-0.1と仮定し、記事掲載の段階では2011年夏の関東エリアの電力不足は25%程度と見られていたことから、需要を25%抑制するには、ピーク時間帯の電気料金を250%上げる、つまり、電気料金を3.5倍にすることが必要、と主張していた。しかし、全ての需要家の電気料金を3.5倍にすることは、自由化を標榜している以上不可能だ。やるとすれば、オフピークの電気料金の引き下げとセットで選択メニューとして導入するしかないが、オフピーク料金の引き下げがあっても、ピーク時の料金が大幅に上がるリスクは負いたくない需要家も多いと思われる。仮に半分の需要家がピーク料金上昇のリスクを回避する方を選択したとすると(実際はもっと多いと思われるが)、残り半分の需要家の需要を50%抑制する必要があり、そのためにはピークの電気料金を500%、つまり6倍にする必要がある。・・・果たしてこれは現実的だろうか。価格メカニズムの活用は重要であるが、オールマイティではない。現実的な限界があると考えるのが当然に妥当だろう。