日本の停電時間が短いのはなぜか


Policy study group for electric power industry reform

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再生可能エネルギー導入と停電時間の関係性

 他方で、日本の停電時間が短いのは、「欧米諸国に比べ、風力・太陽光などの再エネ導入量が少ないからだ。日本の電力系統は、恵まれた条件下でしか低停電率を維持できない。」との批判がある。
 図3は、再エネ導入量が多いスペインの「風力・太陽光の累積導入量と需要家1軒あたりの年間停電時間の推移」であるが、両者は逆相関を示している。スペイン同様、再エネ導入量が多いドイツも同じ傾向を示しており、「もともと再エネ導入量と停電時間は無関係」あるいは「欧米諸国においても停電時間を増やさないように再エネを導入してきている」とみえる。

(図3)スペインにおける風力・太陽光の累積導入量と需要家1軒あたりの年間停電時間の推移

 これらの国々が、労せずして再エネ導入量を増やしてこられた訳ではないだろう。例えばスペインでは、次のメカニズムで発生する大規模停電が最懸念事項であった。
(1)電力系統への落雷事故等により広域的な瞬時電圧低下が発生
(2)再エネの連系装置が一斉停止して供給力が不足
(3)大規模停電が発生

そこでスペインでは、次の対策が行われている。
 
対策①
既設も含め、瞬時電圧低下などが発生しても停止しないための事故時運転継続機能(FRT)の具備を義務付け。
対策②
「再生可能エネルギーコントロールセンター(CECRE)」を設置し、1万kW以上の風力等の出力状態を常時把握すると共に、事故発生時の瞬時電圧低下の影響をシミュレーションし、風力等の停止量が一定値以下に収まるように、あらかじめ発電出力を抑制(今後導入量が増加すれば、抑制量も増加。逸失利益に対する補償なし)。

 一方日本では、電力会社毎に安定的に導入することが可能な「風力連系可能枠」を設定し、この範囲でしか風力を導入してこなかった。日本の風力導入量が少ないのには、風況がよくかつ立地の容易な地点を見いだすのが難しいといった理由もあるだろうが、電力会社自らが設定した「恵まれた条件」の中で、進んだ取り組みをしてこなかったことは、批判されて当然だ。遅まきながら電力各社は共同して風力導入拡大に乗り出したが、世の中の期待に比して歩みは遅い。なお一層の努力が必要だ。

今後に向けて

 日本の電力品質の高さは、電力会社、メーカー、学識者が協力しながら、ハード面とソフト面の対策をしっかり行ってきた成果である。海外の電力会社は、まさに今、スマートグリッドの取り組みの中でこれを目指そうとしているわけであり、日本はこの点では一歩先んじていると言える。ただし、こうした開発の体制が閉鎖的だという批判もあり、こうした批判に電力会社も耳を傾けてもらいたい。一方政府にも、今後の制度改革は、これまでの技術開発体制や現場のオペレーションノウハウを損なうことにならないかどうかに、十分注意して進めて行くことが求められる。
 今以上の停電時間の短縮は、かかる費用に対して成果は期待できないであろうが、電気料金の低減を望む需要家の声に応えるためにも、日本企業が広く海外でビジネスをするためにも、品質は下げずに、コストを低減していくことが重要だ。保有技術の国際標準化、安価な汎用品の利用、技術の普及拡大などがポイントになるだろう。さらに、再エネの導入拡大と安定供給の両立を推進するなど、難しい課題にも取り組んでいくことが、さらなる飛躍につながるものと期待したい。

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