Diamond Jubilee、宴の後


国際環境経済研究所主席研究員

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 そのインタビュー報道に触発されたわけでもないだろうが、翌日12日に、スイス電力会社協会(Association of Swiss Electricity Companies)が脱原発(既存の原発をリプレースしない)のために考えられる3つのオプションを提示した(参考2)。ただ、いずれも電力価格がどうなるかについては言及していない。

要点はこうだと思われる。(各オプションの見出しは筆者の加筆。)

(オプション1:エネルギーコスト30%増加)
エネルギー効率を図りつつ再生エネルギー強化を実施するとしても、エネルギー需要増加を許容すると、①エネルギー消費の4分の1は引き続き輸入に頼らざるを得ない、②また原子力発電に替わる7,8基のコンバインドサイクル発電所(必要に応じてコジェネ発電所も)が必要となり、③2050年までにエネルギーの生産及び(発送電)ネットワークコストは1,180億スイスフラン(=約10兆円)となる30%増を避けられない。

(オプション2:エネルギーコスト45%増加)
エネルギー消費課税によりエネルギー需要増加を押さえ込むとの前提であれば、①2050年までかけて電力の70%を再生エネルギーにシフトが可能(筆者注:現在は56%が水力)であり、それは、例えば、1000基の風力発電や8基の水力発電、サッカー場の広さ相当のスタジアム(筆者注:別報道によれば、12,000㎡)7000個分の太陽光発電が必要になる。③一方、引き続き4、5基のガス発電所(必要に応じてコジェネ発電所も)も必要。④そうした設備投資のため、エネルギーコストは1,350億スイスフラン(=約11.5兆円)となる45%増加を避けられない。

(オプション3:エネルギーコスト75%増加)
更なるエネルギー消費課税によりエネルギー消費を7%減少させるとの前提であれば、①再生エネルギーシフトをより強化し、1250基の風力発電や10基の水力発電、サッカー場の広さ相当のスタジアム11,500個分の太陽光発電が必要。②そうした設備投資のため、エネルギーコストは1,500億スイスフラン(=約13兆円)となる75%増加を避けられない。③ただ、その結果、コンバインドサイクル発電所は不要、必要な電力輸入も再生エネルギーベースのものからで事足りると想定。

 英女史に呼応したわけでもないだろうが、コスト増加受入か否かを強く迫り、政治的判断と社会的受入を求めているようなものと見受けられる。これらの試算は50人の専門家により昨夏からの作業成果とのことのようであるが、これから様々な検証がなされることになろう(参考3)。また、これらのコスト増加がそのまま電力価格に反映されるのかどうかその点も論点だ。Diamond Jubileeは歓喜のうちに終了したが、真夏にロンドンで開幕されるオリンピックに向けてかどうかは定かでないが、そうした議論はこれから本格化していくことになるであろう。

(注:本稿に関する文責は筆者に属し、筆者の属する組織等を代表するものではない。)

(参考)
2.スイス電力会社協会のプレス発表は以下のウェブアドレスから。(独・仏・伊語のみ)
http://www.strom.ch/fr/extensions/news/news-detail/news/vse-praesentiert-drei-wege-in-die-stromzukunft.html?cHash=9035644ddaebf752ee4e33c604dcf942

3.3つのオプションシナリオの詳細は以下のとおり。(独・仏・伊語のみ)
http://www.strom.ch/uploads/media/AES_Factsheets-Scenarios_2012.pdf

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