いま話題の「リアルタイム市場」とは何か

-欧州式と日本式


Policy study group for electric power industry reform

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 4月25日の第4回電力システム改革専門委員会において、電力会社幹部(勝野中部電力専務)から、受給直前まで活用できるリアルタイム市場の新設を検討している旨、発言があった。これに対し、委員である八田達夫大阪大学名誉教授から、「それは時間前市場であって、欧州で一般的なリアルタイム市場とは違う」との指摘があった。結論から言うと、この指摘は正しい。ただし、欧州式のリアルタイム市場よりも、この日本式リアルタイム市場の方が「市場らしい市場」なのだ。

欧州式リアルタイム市場とは

 欧州式リアルタイム市場の説明とその効用については、その八田教授が、大阪府市エネルギー戦略会議に提出した資料に詳しいので、そのまま引用する。

<以下引用>
IV. ヨーロッパの制度から学ぶ逼迫時の需要抑制方法

A. 給電指令所
 電力は、需給を極めて狭い幅で一致させないと、周波数が変化して停電が起きるという特性を持っている。停電を防ぐため、給電指令所は、時々刻々と送電線上の周波数の変化に反映される需給のギャップを監視して、需給を合致させるよう手を打つ。給電指令所は、需要が供給を超えている場合には、まず追加発電を命じる。次に、契約をしている需要家のブレーカーを切って需給調整をする。

B. リアルタイム市場
 市場価格によるリアルタイムでの電力需給調整は、具体的には次の仕組みである。
①大口需要家および発電者は、給電指令所に対して前日需要計画と前日供給計画とを届け出る義務を負う。
②当日に、全体の需給ギャップを埋められるように、需給両面における調整電力の入札を行っておく。
③さらに、個々の発電所と需要家ごとに、実際の利用分とのギャップ分を市場でリアルタイム精算する。(需要計画に比べて超過した分は支払い、節電できたら買い取ってもらう。後者では、節電インセンティブが働く。また、発電側も市場で余剰分を売ったり、不足分を買ったりできる。)

1. 調整電力入札制度
 自由化諸国では、大口ユーザーが、この価格さえ払ってもらえればブレーカーを切られてもよいという価格を、入札する。素材産業などはその例だ。日本でも逼迫時にユーザーの節電を促すためには、大口ユーザーからリアルタイムで調整電力を購入する入札制度を始める必要がある。
 そうすれば給電指令所は、需要超過の場合には、追加発電費用の安い順に待機発電所に追加発電を命じて、不足をうめ、足りなければ、契約している大口ユーザーに代償を払って節電を指示する。このような調整電力入札制度を作ることが、電力供給の安定に大きく貢献する。
 給電指令所がこの入札制度で需給調整をするのに必要な最終的な瞬間ごとの電力購入価格(必要な追加発電費用あるいはユーザーに払う入札価格)をリアルタイム価格という。

2. リアルタイム精算
 調整電力入札制度で入札する特別な発電所や需要家だけでなく、一般のユーザーも新規発電者も全体の需給ギャップをゼロに近づけることを促すために、大口ユーザーや発電会社の毎時の実績値と前日に届け出た計画値との差分を、給電指令所が、(調整電力入札制度で確定した)リアルタイム価格で精算する。これを、リアルタイム精算制度という。
 当日急に発生した原因でシステム全体の電力需給が逼迫すれば、リアルタイム価格は高騰する。この場合、発電所による計画発電量を超える追加発電は高く買ってもらえる。同様に、大口ユーザーが節電すると、計画量からの節電分を給電指令所に高く買ってもらえる。節電分は一種の発電とみなされるわけだ。このためリアルタイム精算制度は、電力逼迫時に発電所に追加発電の動機を与え、大口ユーザーに節電動機を与える。
「調整電力入札制度」と「リアルタイム精算制度」とは、リアルタイム価格を共通の価格としているから、全体で一つの「リアルタイム市場」を形成している。給電指令所は「調整電力入札制度」で卸取引をし、「精算制度」で小売りの売買をしているとみなすことができる。
 <引用ここまで>

 ここで言われたような欧州式のリアルタイム市場を導入すると、大口需要家は;
① 当日の電力消費量が計画を上回った場合、リアルタイム価格で不足分を買い取る
② 当日自主的に節電をした場合、節電して余らせた電力はリアルタイム価格で買い取られる
わけであり、リアルタイム価格は系統全体の需給状況によって変動する。そして、八田教授は、①、②によって需給の安定が図られると言う。