氷の彫刻が投げかけるもの

~スイスがめざす“脱原発社会”の行方~


国際環境経済研究所主席研究員

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連邦行政裁判所の決定は行き過ぎ!?

 2011年のデータが確定するにはあと数カ月待つ必要があるが、2010年のデータによると、スイスのエネルギー消費は過去最高となった。主な理由は3つあり、①リーマンショック後の景気回復、②居住人口の増加(移民の増加であろうか)、③例年にない厳冬による暖房需要の急増のため――ということであった。

 スイスの新しいエネルギー需給見直しはこれから具体化されよう。政策としては、①エネルギー消費の抑制、②火力発電の増加(コジェネレーションとコンバインドサイクル)、③電力輸入の維持強化――などが現在のところ掲げられている。

 昨年5月に行われた世論調査では、原発閉鎖について8割が賛成しており、これは事故後に行われた日本での世論調査結果(7割)よりも高い数字であると報道されていた。とはいうものの、3月7日の連邦行政裁判所の決定については、さすがにメデイアの多くがギアを入れ過ぎではないかという論調で報じていた。

 スイスは冬場には、水量が逼迫し電力供給が厳しくなる。このため、隣接するフランスを中心にイタリアやドイツ、オーストリアから、電力グリッドによる電力輸入で賄っている。現地(ジュネーブ)の知人に、原子力閉鎖で電力供給に不安はないか聞いたが、「(普段から)輸入しているので大丈夫ではないか」との答えだった。

 その知人が、「過去、原子力政策については、例えば、チェルノブイリ後の1990年に国民投票で10年間の原発新設凍結等が決定されたように、レファレンダム(国民投票)が行われて来たが、今回は、まだレファレンダムが実施されていない。今後どうなるか分からないよ」と、何ら不安気のない様子で答えたのが印象的だった。氷の彫刻が融けてしまった今、人々の電力需給に対する心配も春の日和のように和らいでしまったようである。

スイス連邦政府環境・運輸・エネルギー・通信省ホームページ
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内閣府原子力委員会

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