電力供給・温暖化のトンデモ本に要注意!

データや理論をきちんと判断する姿勢が必要に


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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電力料金――企業の必要収益率に関するトンデモ話

 この本のなかに、東電の総資産額が出てくる。東電が送配変電設備を売却すれば、新たに購入した企業が送配電料金を下げるので、結果として電力料金が大きく下がるとの主張だ。しかし、前提になっている東電の資産額が完全に間違っている。実際の資産額に対して10兆円以上大きい数字が記載されている。見間違いかと思い、何度も見たほどだ。

 些細な間違いを指摘しているのではない。数字を間違ったことにより、広瀬氏が投資という企業活動の基本に関わる知識をまったく持っていないことが露見している。企業活動の基本を理解しないまま電気料金という収益の話をすることには無理がある。広瀬氏が引用した2010年3月期の東電の有価証券報告書では営業利益は2500億円、経常利益は1586億円だ。一方で、広瀬氏によると、東電の発電設備資産額は12兆5325億円、送配変電設備資産額は15兆9510億円だ。東電の総資産額は30兆円近いことになっている。

 ビジネスに携わっている人であれば、数字を見るだけで、30兆円もの資産を利用し2500億円の利益しかない、そんな低収益の事業を行う企業はどこもないと考えるはずだ。広瀬氏は、実際の資産額の2倍以上になる間違った数字を使って議論しているが、その数字が間違っていると、まったく思わなかったらしい。だが、仮に広瀬氏が数字を間違っていないとしても、送配変電設備の売却により電力料金引き下げが実現する可能性はない。

 広瀬氏は、新日鉄や東京ガスなどの企業が東電の送配変電設備を買収して送配電事業を行えば、送配電料金が下がると主張している。この話は、経済理論からすると成立しない。特に、広瀬氏の書いている間違った総資産額を前提にすると、送配電料金は大幅値上げが必要になる。こういう計算だ。

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