発送電分離問題の再考②-1

英国事例に見るフェアの追求とその帰結


海外電力調査会調査部 上席研究員

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究極の目標は「電力の一般商品化」

 発送電の分離に当たっては、供給義務についても再構築する必要がある。発送電一貫体制における供給義務は、「供給力の確保義務」、「接続義務」、「供給義務」を一体化したものである。発送電分離体制の下では、それぞれの分野でこれらの義務のありかたを考えなければならない。

 「供給力の確保義務」については、「すべての事業者に課すのか」、「いずれの事業者にも課さないのか」という選択を迫られることになろう。「電力会社に課せばなんとかなる」では、市場化の意味はなさなくなる。英国では市場メカニズムを通じて確保されることが前提となるため、いかなる事業者にも課していない。

 一方、「接続義務」については、英国ではネットワーク事業者に非差別的に課している。これにより、自由化の弊害として指摘される僻地の需要家の利益が損なわれるという問題は解消される。小売事業者の業務は物理的な供給ではなくなり、僻地の需要家も都市部の需要家も同等の客となるからである。非差別的な接続は、僻地需要家の配電コストを都市部の需要家が補助する形となるが、これを不公平と見るかどうかは国民の判断に委ねられるところである。英国では僻地需要家の配電コストを補助するため、送電料金を通じて浅く広く全国民から徴収する方法を採用している。唯一、社会主義的な制度であるが、弱者の保護という観点から、これを是としている。

 小売事業者の供給義務は「需要家との契約義務」ということになる。英国では、家庭用市場に参入した全ての小売事業者に対して、「料金表の公表義務」と「選択された場合の拒否の禁止」という形で義務を課している。すべての事業者が全国区であるため、特定の事業者に課すということはない。このため、最終保障事業者という考え方もない。英国で「ラストリゾートサービス」と言う場合、倒産の際にその事業者の需要家ベースを引き継ぐ制度をいう。

 一方、家庭用以外の需要家に対しては供給義務を課していない。小売事業者は、需要家からの見積依頼に対して条件を任意で提示するだけである。このようななかで、特にリーマンショック以降、銀行の「貸しはがし」と同様、企業の信用力の低下に伴って供給契約を更新できない需要家の増大が一部社会問題化している。リスクの高い企業が電力の供給を受けるためには、「前払い」「担保の設定」「信用保証会社による保証」などの措置が必要となる。これに対する規制側の介入はない。自由化市場では、需要家も信用度に応じてコストを払わなければフェアではないということなのであろう。

 このように、発送電を分離して制度の矛盾を排除してゆくと、最後には「電力の一般商品化」に至る。英国では、これを究極の目的としている。

 「私の任務は、私を不要にすることである」

 これは、1989年に電力市場の規制者として任命されたリトルチャイルド氏が述べた有名な言葉である。

(後編に続く)

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