鉄鋼業は東日本大震災をどのように乗り切ったか

関田貴司・日本鉄鋼連盟 環境・エネルギー政策委員会委員長[前編]


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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エネルギーの安定供給とコストを考えないと経済と環境の両立はできない

――鉄鋼業界として、環境と経済の融合についてはどのように考えていますか。

関田:鉄鋼の製造プロセスは、JFEスチールのような高炉業のほかに電炉業があり、大別すると、この二つに分かれます。高炉の場合は、鉄の酸化物である原料の鉄鉱石を原料炭で還元して清浄度の高い鉄をつくりますが、その際に副生ガスが出ます。そのガスで自家発電をするので、外部から購入するエネルギーはゼロではありませんが、それほど多くはありません。

 ところが電気炉は、その名の通り大量の電気でスクラップを溶解するプロセスです。電炉メーカーのほとんどは、それぞれ地域の電力会社から電気を購入しています。そういう意味では、まず電力供給が断たれたら終わりですし、その使用量も他産業とは比較になりません。例えば、売上高あたりの電力使用量でみると、2007年度ベースの試算では、電炉業の平均が100万円当たり4.38メガワット時だったのに対して、製造業の平均は0.53メガワット時ですので、8倍以上の電力を消費しています。

――かなりの電力を必要とするわけですね。

関田:電気炉はリサイクルの立役者であり、社会的に非常に立派な役割を果たしています。電炉業が今後も持続可能であるためには、まずは十分な電力を安定して得られることが必要です。しかし問題は、電力の量だけではありません。電力価格が高いと立ち行かなくなります。鉄鋼製品も今、市場が非常にグローバル化しており、世界中がどんどん日本を追いかけてきていますので、電力価格が他国より高くなり製造コストが上がると、輸入品に負けてしまうことになります。

 もう一つは、電力が妥当な価格で安定供給されないと、私ども鉄鋼業のお客様が外国に出て行ってしまう、いわゆる空洞化が起きてしまいます。お客様が海外に出てしまうと、お客様の業界もそうですし、我々鉄鋼業も国内雇用の維持・拡大といった、企業が担うべき基本的な役割を果たすことが難しくなってしまいます。

 国内の経営環境が悪化し空洞化が起これば、雇用は減り、税収にも影響します。今、日本は政府支出ばかり多くて税収が足りないという状況が続いていますが、これが悪循環に陥っていき、取り返しのつかない事態を招くことは絶対に避けねばなりません。エネルギー消費と表裏一体の課題として地球温暖化対策がありますが、これについても企業経営の健全性が一つの基盤となります。CO2排出削減の決め手となりうる既存技術の普及や革新的技術の開発は、多くの日本企業の優れた技術力がそのカギとなっており、将来に向けた活発な事業活動の継続が期待されているからです。これらの意味から「経済と環境の両立」は非常に重要な概念であり、今後のエネルギーの安定供給、コストについてはよくよく考え、対応を誤らないようにする必要があるかと思います。

――電力の安定供給とコストの問題は産業にとっては大きいわけですね。

関田:鉄鋼業に限らず日本の全産業は、国内資源がないなかで必死に努力しています。鉄鉱石だけでなく石炭や天然ガス、石油など、ほとんど全部を輸入に頼っています。ですから、過去のオイル・ショック以降、省エネに懸命に取り組んできた。その結果として、鉄鋼業のみならず各業界が、エネルギー効率においてトップに立っているということです。エネルギー小国の宿命として省エネをやってきたともいえます。

――資源がないからこそ省エネ技術を向上させてきたわけですね。

関田:日本には資源がない。それこそ原油を断たれたらアウトでしょう。そうなると原油を使う量を減らす努力が必要になる。やはり安定供給とコストが問題で、このエネルギーセキュリティーを考えた省エネは、昨日今日始めた話でなく、何十年の積み重ねです。そうした積み重ねがあって、どの業界もエネルギー効率が世界ナンバーワンになっている。我々の諸先輩方の代からの弛まぬ努力の積み重ねの結果と言えるのではないでしょうか。

資源小国の危機感が、世界最高の省エネ技術を持つ鉄鋼業を育てた

(後編につづく)

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