塩崎保美・日本化学工業協会技術委員会委員長に聞く[前編]

温暖化問題とエネルギー問題は表裏一体。政府には現実的な解を求めたい


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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現実を踏まえない政策ばかりでは国が滅ぶ

――今後のエネルギー需給をどうしていくのか、政府に対してどのような要望をお持ちですか。

塩崎:エネルギーの問題には必ず温暖化問題がついて回ります。今、どちらかというと、環境省と経済産業省がバラバラでやっていますが、本来は温暖化対策とエネルギー基本計画は一体で議論すべきであり、現実的な方向に両者で練り上げていくことを切に望みます。エネルギー問題は地球温暖化問題と表裏一体ですから、そこをきちっとふまえたうえで議論し、計画を出すことが望ましいと思います。

――省庁間の足並みがそろっていないということでしょうか。地球温暖化問題への対処方針がはっきりしないのに、エネルギー政策を打ち出すのはどうかと。

塩崎:そうですね、現実をよく見ていないと感じます。今さら批判しても仕方ありませんが、たとえば鳩山由紀夫元首相が突然方針を出すということもありました。それまで、麻生太郎元首相がやっていた検討を無視するようなことが、いきなり出てしまったわけです。一方で、経済産業省はエネルギー基本計画で、2030年までに原発を14基建設すると打ち出していましたが、そんな非現実的なことをそれぞれの省庁で出すようでは、国を滅ぼしかねません。現在のエネルギー事情や産業の状況をきちっと踏まえたうえで検討結果を出さなくてはいけません。そう言った部分で、今は不十分ではないかと思います。

――実態をきちっと調べたうえで現実に即した目標設定をすべきだということですね。

塩崎:そうです。しかも、国民に対する情報発信が十分ではないと思います。たとえば、原子力発電をやめると電気料金が上がりますが、それを誰が負担するのでしょうか。均一に使用量に比例すると考えると、当然、産業界のコストが上がります。日本で「もの」が作れなくなり、工場などが海外移転することになります。現実にそういうことがどんどん起こっています。そうすると雇用がなくなり失業率が上がる、そして社会不安が増すことになる。そういうことが理解されていません。そういう事態になる可能性が高いことを分析して定量的な情報発信をして、国民全員が同一の情報を共有しないといけません。

 原子力をやめなさいという人もいます。50年先はそうかもしれませんが、その間、どうやって日本の産業、あるいは日本人が生きていくのかを考えたうえで議論しなければいけないと思います。具体的にどういう事態になるかを踏まえてきちんと情報開示する必要があります。今はそれができていない状況ですので非常に心配です。