COP17を巡る諸外国の動向等について


国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)

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 国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)が南アフリカのダーバンで始まった。2012年末に第1約束期間が終了する京都議定書を、2013年以降も先進国に削減義務を課すことで延長することに合意できるか、はたまた米国や中国など京都議定書で義務を課されていない主要排出国を含む包括的な新たな合意に向けて道筋をつけられるかが焦点であり、「京都議定書の単純延長に反対している日本は途上国やEU(欧州連合)からのプレッシャーに抗し切れるか」といった文脈の報道が始まっている。

 しかし、COP17の論点や焦点はそのような単純な構図では割り切れない、複雑で重層的なものである。しかも、世界、とりわけ未曾有の経済危機、財政問題に直面する日米欧の先進国の置かれている政治・社会情勢は、経済を制約する形での環境政策を受け入れることに極めて慎重にならざるをえない状況下にある。環境と経済の両立を実現するとされてきたグリーン経済成長モデルも、英国で「エネルギー貧困」問題が顕在化したり、米国でグリーンニューディール政策が暗礁に乗り上げたりするなか、急速に勢いを失っている。

 本稿では、そうした各国をとりまく情勢をもとにCOP17に臨む各国のポジションについて解説し、なぜ国連交渉が行き詰っているか、その背景にある構造を明らかにする。さらに、そうした行き詰まりを打破して地球環境問題に具体的な進展を図るために、いかなる代案がありうるか、その代案に日本としてどのように貢献できるかについて論じてみたい。

南北問題の固定化を望む途上国は京都議定書の単純延長に前向き

 まず、COP交渉で大きな勢力となっている途上国(新興国、島嶼国、最貧国)は、途上国と先進国が同質の義務を負うべきでなく、先進国のみが法的削減義務を負うべきという原則を頑として譲ろうとしていない。“空白期間”を回避すべきという論点から、京都議定書第2約束期間は必要であり、途上国は自主的な削減行動にとどめるべきという立場だ。

 京都議定書は先進国のみに削減義務(と途上国支援義務)を課し、途上国には義務を課さないという意味で、途上国にとって都合の良い枠組みである。その長期固定化はG77+Chinaと呼ばれる途上国グループとしては当然の要求だろう。これは、先進国による途上国開発支援という、従来からの国連の「南北問題」の図式の固定化を意識したものだ。

 ただし、気候変動による災害リスクに晒されていると感じている島嶼国、最貧国は「本気で」地球規模の温室効果ガス(GHG)削減を期待しているのに対し、中国とインド、ブラジル、南アフリカの4カ国(BASIC諸国)は、自らの経済成長が今後世界のGHG増加のほとんどを占めるという実態があり、成長制約につながるような、いかなる削減義務も拒否する、つまりGHG排出増を制約させないという立場をとっている。

 たとえ先進国が京都型の削減義務を負って努力をしても、BASIC諸国の経済成長による排出増加分はそれを遥かに上回ることが予想されている。GHGが温暖化の主要要因だとすれば、結局、先進国の削減義務だけでは温暖化は回避できない。災害被害を避けたい島嶼国や最貧国とは、本来、利害が対立するはずだ。それでも、交渉の場で協調姿勢がとられているのは、BASIC諸国が中国を中心にアフリカ諸国などへの経済援助などを通じて懐柔を図っているためといわれている。「先進国のみが義務を負い、先進国から途上国に資金を流す」という南北問題としての構図の演出に成功している。

すべての主要国が参加する法的枠組みの成立目指すEU

 一方のEUは、複数の意見が複雑に絡みあっているのが実態だ。

 EU環境委員会とEU環境大臣会合は、環境至上主義に立ち「EUが世界のGHG削減行動をリードすべきで、そのためには率先垂範が必要。京都議定書の第2約束期間の義務も負うべき」としている。

 EU-ETS(排出権取引)制度に膨大な資産を投下してきた欧州金融界は、別の意味で今回の交渉に注目している。経済危機で需要が低迷し、排出権価格の暴落リスクに直面しており(この1年で排出権価格は半額以下になり実質的にすでに暴落している)、京都議定書の第2約束期間が設定され、EU以外の先進国にも削減義務が課されることで世界に排出権需要を創出し、排出権価格が底入れ(高騰)することに期待している。これは、排出権の金融不良債権化を懸念するEU金融当局も同じ立場と考えられる。

 英国では排出権価格のフロアプライスを設定することも検討されている。これも排出権価格維持のための動きだが、従来からの市場メカニズムによって「効率的に」削減が実現できるという新古典派経済学上の主張は影を潜めている。景気悪化により需要が低迷し価格が下落するのは「当然」の市場メカニズムのはずで、価格維持のために「介入」すれば、経済学的効率性は損なわれることになる。

 これに対し、産業界や南欧諸国は、GHG削減義務や環境政策が経済の足枷になることを嫌っている。財政当局もギリシャ危機に直面し、途上国への温暖化対策資金支援どころではないのが実情だ。

 こうしたなか、「無条件で京都議定書の第2約束期間への参加」を主張したEU環境委員会に対し、EUだけが突出して削減義務を負わないように「すべての主要国が参加する法的枠組みにむけた交渉マンデート(たとえば2013年から15年を移行期間とし、15年までに法的拘束力のある包括的枠組みを決めることに主要国が合意する)に合意する前提」がつけられた。同時に、京都議定書の第2約束期間に「コミット」するのではなく「オープン」であるとして、条件が満たされた場合に何をコミットするかについても留保し、米国やBASIC諸国から最大限の譲歩を引き出す戦略に移行している。

 また、カンクン合意に基づいて提出した、2020年までに1990年比20%削減という目標も、東欧諸国の参加効果などに加え、昨今の景気低迷から、追加的努力なしに自動達成可能な“ゆるゆるの目標”となっている。これを30%削減に強化することを狙った欧州環境委員会や金融界の動きは、ポーランドなどの強い反対から7月5日の欧州議会の投票で否決され、20%削減という「ゆるい」目標を維持している。

中国は対等の義務や責任を負うべきと主張する米国

 米国内では温暖化問題の存在、あるいはGHGが温暖化の原因であることを信じる有権者の割合が半数を割っており、国内の温暖化対策も遅滞している。米国の排出キャップと排出権取引を規定した「米国クリーンエネルギー・安全保障法案(いわゆるワックスマン・マーキー法案)」は成立の可能性がなくなり、代案としてオバマ政権が目指した大気汚染防止法に基づく環境省(EPA)規制も実施が先送りされている。したがって、米国がコペンハーゲン合意で提出した、2020年までに2005年比17%削減という目標の実現が担保される国内制度は機能していない。

 加えて、過半数を制し下院を主導する共和党は、従来から国連プロセス懐疑主義(米国納税者の金が国連の巨大な官僚主義に無駄遣いされている)をとり、中国の経済成長による大国化(覇権)への警戒も強い。これが、中国と同じ立場の権利義務を求める背景ともなっている。

 京都議定書に対しても、当時のゴア副大統領が1997年12月にCOP3で署名したものの、その時点で、すでに条約批准権のある米上院は全会一致で「途上国に同等の削減義務を課さないUNFCCC下の議定書は批准しない」との決議(バード・ヘーゲル決議 97年7月)を行っており、もともと米国が京都議定書の第1約束期間に参加する可能性はゼロだった。同決議は現在も有効であり、途上国に削減義務が課されないいかなる新枠組みにも米国が参加する見通しはない。

 なお、米国と自由経済協定(NAFTA)を結び、米国と密接不可分な経済体制にあるカナダは、「環境・温暖化政策で米国と異なる政策を採ることはない」というのが基本方針となっている。最近の報道ではカナダも米国にならって京都議定書そのものから離脱する決定を年内にも行う計画という。

 一方、環太平洋諸国の一つであるオーストラリアのでは、ギラード政権下で新たな炭素税(将来、排出権取引制度に移行)について、11月8日に上院議会で可決し、2012年7月1日の導入が確定している。将来的に欧州のEU-ETSと連携することが期待できるため、国内排出者に排出上限を課す根拠となる京都議定書は、国内政策的に容認できる状態だ。ニュージーランドは地理的、経済的関係の深さから、実質的にオーストラリアと同一行動をとることが国益になる。

京都議定書の単純延長には一貫して反対の日本

 こうした各国の動きに対し、日本やカナダ、ロシアは世界排出量の26%しかカバーしない京都議定書の単純延長には一貫して反対している。すでに日本はCOPの事前協議の場で「包括的枠組みができるまで、各国がコペンハーゲン合意に基づく(自主的な)目標を掲げて削減努力をするべき」と提案した。

 日本は昨年のCOP16冒頭で「いかなる状況、条件下でも京都議定書の第2約束期間にはコミットしない」ことを宣言し、その後一貫して、その方針を貫いている。一方、コペンハーゲン合意で日本が提出した「条件付25%削減」目標については、「主要排出国が入った公平かつ実効性のある法的拘束力のある枠組みができれば」という前提条件がついている。

 国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、日本のエネルギー起源CO2の総排出量は約10.9億t。25%削減とすると約2.7億t削減になるが、これは中国が2008年から1年間で増やしたCO2排出量約3.2億tでほぼ相殺されてしまう。つまり、日本が仮に莫大な国民負担をかけて10年間かけて年間排出量を25%削減したとしても、地球規模で見れば、その削減分は中国の1年間の排出増で帳消しとなってしまう。この事実は、日本国民も理解すべきである。

表.COP17に対する各国のポジションの違い

  京都議定書の第2約束期間への対応
中国を含む途上国
(新興国、島嶼国、最貧国)
必要。“空白期間”の発生を回避すべき。先進国のみが法的削減義務を負うべきで、途上国と先進国が同質な義務を負うことは不可
日本、カナダ、ロシア 世界排出量の26%しかカバーしておらず拒否
EU(欧州連合) すべての主要国が参加する法的枠組みに向けた交渉マンデートに合意することを前提に“オープン”
米国 先進国と途上国で約束の厳密な同質性が担保されない限り、(次期枠組みの)交渉マンデートに合意できない(特に、中国と米国の負う義務や責任はまったく同等でなければならないと主張)
オーストラリア
ニュージーランド
新たな法的枠組みができることを条件に参加を容認

京都議定書の第2約束期間に対する各国のポジションには大きな違いがある

国連交渉は、どの国に成長を認めるかに関する交渉という見方

 そもそも国連気候変動枠組み条約と京都議定書の枠組みは、実質的に機能不全に陥っている。京都議定書の第1約束期間中、世界のGHG排出量は90年比で約4割増となっている(2008年は90年比40.5%増、2009年は90年比38.3%増)。この原因は、京都議定書で「免責」された新興途上国の経済が急速に成長したことにある。つまり、京都議定書は地球規模のGHG削減に無力であり、今後も途上国免責の構図があり続ける限り、無力であり続けるということである。

 すでに紹介したように、新興国のGHG排出は各国の経済成長とそれにリンクしたエネルギー消費の拡大と共に増加する。脱炭素化が進んでいるといわれている欧州でも、リーマンショックによる景気低迷から経済が回復する過程で、排出量を増加させており、経済成長とGHG排出量の正の相関関係は直近でも克服されていない。

 したがって、UNFCCCやCOPで各国の交渉官が話し合っているのは、結局のところ「どの国にどれだけの経済成長(=エネルギー消費)を認めるか」という交渉であり、「途上国の成長のために先進国がどこまで自らの成長を抑制するか」という交渉なのである。

 これに加えて、「豊かな先進国は貧しい途上国の経済成長を援助すべき」という、従来からの国連の南北問題の価値観が持ち込まれ、そこに地球温暖化という価値の軸が加わったことによって、「今までのGHG排出で地球を汚してきたのは先進国なのだから、先進国が脆弱な途上国を援助するのは当然の義務」という、援助をもらう側の倫理的正当性をもたらしている。先進国が途上国を「援助してあげる」のではなく、「罪滅ぼしのために援助するのが当然」という価値観の転倒が生じているのだ。

 結局、温暖化問題を軸に「ゼロサムゲーム」のパイの取り合い、つまり「富の再配分」を目指したのがUNFCCC・COP交渉だった。日米欧3極ともに危機的な経済・財政問題に直面している現状下で、そもそも配分すべき富がなくなっているなか、配分どころではないというのが先進国の本音であり、新たな「配分」のための枠組みに合意できる可能性は、事実上「ない」というのが実態だろう。

 したがってダーバンでの交渉がどうなるにせよ、日本の京都議定書の第2約束期間への不参加問題や震災による削減目標の見直しについて、EUや途上国が後ろ向きだとして非難したとしても、それは地球全体の温暖化対策としてはまったく本質的な問題ではない。そもそも実態として、温暖化対策上無力かつ無意味になってきている枠組みについての交渉なのであり、京都議定書の第2約束期間があってもなくても、日本が25%を掲げても降ろしても、地球規模のGHG排出量は現状トレンドでは長期的に増え続け、もしそれが温暖化の原因であったとすれば温暖化は不可避となるのである。

 その意味で、先進国と途上国の異なる義務(というより途上国の免責枠組み)を固定化、既成事実化する京都型の枠組みは、地球環境対策に逆行することになり、日本政府がこれに強く反対していることは地球温暖化対策の観点からは「正しい」主張である。日本政府が求めているように、あくまで「米中の2大排出国を含む、すべての主要排出国をカバーする法的枠組み」の下で対策を採ることが必要である。その際、京都型のトップダウンで削減義務を設定する京都型アプローチは合意不可能であり、あくまで自主的で協力的な枠組みを設定して、各国の自主的な対策、国際間の協力的な対策を具体的に積み上げる新たな枠組みが必要となる。
現在のシステムの延長線上に温暖化問題の克服はない

 それではどうすればよいのか?何か打つ手はないのか?

 今、世界が合意すべきことは、合意できない交渉を延々と続ける一方で、途上国を中心に拡大を続けるエネルギー消費や、GHG排出の増加を放置することではない。たとえ自主的で、拘束力のあるものではなくても、具体的な省エネ、実質的なGHG排出削減につながる「アクション」を起こすことである。

 途上国が経済発展していく過程で、最小限のエネルギー消費で同じ富を生み出すことができれば、そうでない場合に比べ、GHG排出量は抑制することができる。最高効率の省エネ、省資源技術を世界中に普及させることは、そもそも途上国にとっても経済的に価値があり、必ずしも義務的な国際枠組みを必要としない。そうした技術の移転や協力を促進するための制度は、技術を持つ国・企業と、技術を求める国・企業の間で合意すれば、国連の枠組みを待たずとも直ちに実行に移せるものである。

 日本政府が進めている「二国間オフセット制度」は、まさにこうしたボトムアップで自主的な省エネ、環境対策を進めるための政策提案となっている。一方、先進国の立場から見れば、途上国の経済発展に伴い資源・エネルギー価格が上昇することを見越して、省エネルギー技術の開発を推進・強化することが、経済的に合理的な戦略となる。

 こうしたボトムアップで個別技術的な対策によって、「2050年GHG半減」といった目標を達成できる保証はないが、排出増を確実に遅らせる効果は期待できる。1つのプロジェクトが実施されるごとに確実に進捗が期待でき、目標だけ掲げて何も実施されない場合より遥かに実効的である。

 同時に短期的な対策として、気候変動が引き起こす自然災害に対する最貧国の抵抗力を強化することだ。こうした対策は、従来のODA(政府開発援助)や世界銀行など、既存の途上国開発支援の枠組みの中で焦点を絞って対処することで、すぐにでも実施可能であり、必ずしも気候変動枠組み条約の新たな議定書を必要としない。

 最後に、今後、途上国の経済が持続的に成長し、70億の人口(今世紀半ばには90億人になるとも言われている)が衣食住の足りた人間的な生活を送るためには、現状に比べてはるかに膨大なエネルギーを供給する必要がある。それには、現在の有限な化石燃料、高コストで不安定な再生可能エネルギーだけでは不十分であることは明らかである。長期的に見れば、化石燃料に代替しうる「安価で万人がアクセス可能な安定的なエネルギー」を供給する革新的技術の開発が必須となる。

 豊かな先進国においてすら、恒常的な補助金、高額の買取制度(FIT)で支援しなければ普及しない太陽光や風力といった現状の再生可能エネルギーが、自律的に化石燃料に代替していくことは考えられない。ましてや今後、膨大なエネルギー需要が発生する途上国において、そうした補助金前提の高価なエネルギーで供給を満たすことはありえない。

 したがって、石炭、天然ガスのコストを下回る、真に革新的で実用的なエネルギー技術を開発することこそが、温暖化対策のみならず人類に求められているのである。そうした革新エネルギー技術を人類が手にしたとき、化石燃料依存からはじめて自然体で脱却することが可能となり、議定書や条約に頼ることなくGHGによる温暖化リスクからもおのずと解放されることになる。

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