日本経済が再び世界をリードするために[後編]

電力の安定供給確保が日本経済の浮沈を決めることになる


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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野田政権は産業界の危機感を共有できるか?

――11月末には、南アフリカで「第17回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP17)」が始まります。東日本大震災の影響でますます厳しくなりましたが、日本の温室効果ガス削減の中期目標についてはどうお考えですか。

井手:中期目標は、何の裏付けもなく唐突に出てきた数字という印象です。温暖化対策基本法案の成立を待たず、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が成立しましたが、エネルギー起源のCO2が主たる温室効果ガスである我が国では、エネルギー政策と温暖化政策は表裏一体です。ポスト京都議定書に入る2013年以降の我が国の政策や2020年の中期目標については、来年決定される国の新しいエネルギー基本計画を検討する過程で、ゼロベースで検討すべきだと思います。

――現状を踏まえた現実的な行動計画が必要になりますね。

井手:日本は当面、化石燃料の利用増が見込まれます。また、再生可能エネルギーの導入にも限界がある。国内で最大限の努力をすることは当然ですが、もっと柔軟に考えるべきだと思います。たとえば、日本の最先端技術を活用して世界のCO2削減に貢献し、その削減を日本の貢献策として国際社会に認めてもらう。目標数値の大小を競うのではなく、最先端の環境技術や省エネ技術の活用による間接的な貢献についても、きちんと主張すべきです。

――電力需給の問題だけでなく、日本企業は急激な円高や資源価格の高騰、地球温暖化対策など、さまざまな問題に悩まされています。

井手:当社は非鉄金属やセメントなどの複合企業体で、それぞれの事業によって将来展望が異なります。たとえば主力事業の一つであるセメントは、地産地消型の産業ですが、超硬工具はグローバルな商流のなかで激烈な競争をしています。しかし、国内が政治的に不安定であることは、どの事業にとっても大きなマイナスです。これまでは、紛争地域や新興国などで政治リスクが議論されることはありましたが、日本のような先進国で政治リスクが議論されることは、ほとんどありませんでした。早急に、安定的な政権運営を取り戻してほしいと思います。

■インタビュー後記
 井手さんには、9月30日にお話を伺いましたが、電力供給の制約が企業活動の収縮や国際競争力の低下、産業の空洞化につながるという強い危機感を感じました。これまで日本政府は、温暖化対策に重きを置いてきましたが、今必要なのは、電力の安定供給を実現する確固たる政策です。その具体策を強く政府に求めると同時に、野田政権に対する期待を繰り返し表明されたことも印象的で、これからの日本経済が、政策のあり方で大きく変わるのだということを井手さんの言葉から実感しました。野田首相が産業界の声に応え、具体的で現実的な道筋を示すことができるのか注目したいと思います。(松本真由美)

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