米国グリーン・ニューディール政策破たんの実相


国際環境経済研究所前所長

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 2009年、米国はオバマ大統領が掲げた「グリーン・ニューディール政策」に沸いた。その後、各国が環境政策と雇用対策を融合させるコンセプトとしてこれを取り上げ、成長戦略として期待した。

 しかし、2年経った今、米国の現状はどうか。「グリーン成長」は実現しないまま、厳しい雇用情勢が継続しており、オバマ大統領の支持率も低下している。追い打ちをかけるように、重点支援した太陽電池メーカーが破たん。支援が妥当・適切だったかが政治問題に浮上している。

 さらに、再生可能エネルギー普及の支えとなってきた債務保証制度が9月末で終了、12年末には風力発電に対する発電税控除の優遇措置も期限を迎えるなど、諸制度が尻すぼみだ。優遇制度が縮小する一方で、経済原理を持ち込む動きも出てきた。例えば、今年前半のエネルギー法案に関する議論では、再生可能エネルギー支援にリバース・オークション(費用対効果の高いものから優先的に採用)が提案された。いつの時代も国家の政策目標と市場原理の狭間で、いわゆる「グリーン産業」は、大きなビジネスリスクを抱え込んでいるのである。

 米国3大電力会社の一つでシカゴに拠点を置くエクセロン社のジョン・ロウCEO(最高経営責任者)へのインタビューを基に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(10月22日-23日ウィークエンド版)が、これに関連した記事を掲載している。(http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204618704576641351747987560.html)

市場原理を無視した超党派の要求が政策を歪める

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙でロウCEOは、「米国の共和党、民主党の主要メンバーは、だれも電力市場に秩序があるとは信じていない」と語っている。ときには、市場原理を否定するような要求が、超党派で行われてきたという。その例として、バージニア州知事(共和党)とメリーランド州知事(民主党)が「もっとオフショアの風力が必要」という点で合意したことを挙げている。

 ロウ氏は、「洋上風力発電は最もコストの高い2つの発電方式のうちの一つ。(もう一方の)太陽光と比べると、数千MW(メガワット)単位で設置されるため、本当に金を捨てるようなもの」と指摘する。つまり、経済合理性の観点からだけでは選択肢になりえず、ここには政治的な思惑があったことを示唆している。記事中、ロウ氏は「一方で市場原理を求めつつ、他方で政治的な嗜好から技術選択をして助成を行うということは、市場に歪みをもたらす。政治的な選択よりも市場での秩序ある規制を求めるべきだ」と結論づけている。

 もちろん、電力が環境や安全保障などに与える影響を考えれば、コストの観点だけではなく、さまざまな社会的価値を考慮に入れて適切な規制を設けなければならない。しかし、規制が合理的な範囲を超えて行き過ぎたものになれば、規制によって実現される健康や安全などの社会的厚生よりも、規制をクリアするためのコストが過度に大きくなる。この例として、ロウCEOは、石炭火力に対する、米環境保護庁(EPA)による輻輳的な大気汚染物質の排出規制強化の動きを指摘している。

 過度の規制は経済活動に悪影響を与える結果になり、結局のところ、需要家自身に跳ね返ってくることに注意しなければならない。ロウCEOの指摘は日本の政策決定者にとっても心に留めておくべきものではないだろうか。

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