再生可能エネルギーによる景気浮揚は本当か?

米太陽光発電企業破綻の教訓


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 再生可能エネルギーのなかでも、日本では太陽光発電に対する期待が高い。欧州で再生可能エネルギーの主力になっている風力発電は日本には適地が少ないし、地熱やバイオマス、潮力などのポテンシャルを考えても大きな供給量を期待できないからだ。結局、太陽光発電が日本では主力にならざるを得ない。

 その太陽光発電を大規模に導入する目的で、「再生可能エネルギー特別措置法」が成立した。再生可能エネルギーから生まれた電力を固定価格で高く買い取り、需要家が電気料金として負担する仕組みだ。これにより、再生可能エネルギー設備への投資が進み、関連産業が日本で育つことが期待されている。

 しかし、この考え方は正しいのだろうか。日本に先行して固定価格買い取り制度を導入した欧州では、使用されている太陽光発電モジュールの大半は中国、台湾製だ。欧州ブランドの製品でも、モジュール製造はアジアで行っている。“欧州産”は価格競争力がないためだ。もっと悲惨なのは、オバマ大統領が再生可能エネルギーによる雇用創出を打ち出した米国で、8月中旬から、日本の会社更生法に当たる連邦破産法第11条、いわゆる「チャプターイレブン」を申請するモジュール製造企業が相次いだ。

 たとえば、8月15日にエバーグリーンーソーラー社、8月17日にスペクタルワット社、9月7日にはソリンドラ社(昨年オバマ大統領が視察し、5億ドル以上の連邦政府の資金を投入)がチャプターイレブンの申請を行っている。このうちソリンドラ社は、1100人の従業員の大半を即日解雇した。破綻の原因は中国企業との競争に敗れたことだが、競争激化の本当の原因は、欧州市場にあると見られている。

市場創造による価格競争よりも差別化技術の育成を

 固定価格買い取り制度により、ドイツやスペイン、イタリアでは、太陽光発電設備の導入が急増した。その後、電力価格の上昇と送電線網への負荷増大を恐れた各国政府は、相次いで買い取り制度を見直した。そのため、欧州の太陽光市場は急速に冷え込んだが、そこで窮したのが中国モジュールメーカーだった。

 欧州市場を当てにして増産を行っていた中国企業は大量の在庫を抱え、安値での販売を強いられることになった。報道によると、太陽光モジュールの製造コストは、中国では1W当り1.1ドル、米国では1.8ドルとされる。米国メーカーはコスト競争力のある中国メーカーの安値攻勢に対抗できず、破綻に至った。

 こうした背景を踏まえて、固定価格買い取り制度を見ると、これからの日本の太陽光導入シナリオが浮かび上がってくる。たとえば、日本でも事業用の大型太陽光発電設備の導入が急増すると思われる。買い取り価格の設定次第だが、リスクが極めて限定された有利な投資になる可能性が高い。欧州のように、異業種からの参入が相次ぐ可能性が高い。そうしたなかで、事業者はモジュールの産地より、価格に高い関心を持つと言うのが欧州市場での経験であり、日本も当然、同じ道を歩むと考えられている。

 たとえば、日本でのモジュール販売価格は1W当たり400~500円になっている。これで、1W当たり100円強で販売している中国メーカーと競争できるのだろうか。「固定価格買い取り制度を導入して市場を創れば、メーカーが育つ」という意見もあるが、それは間違いではないか。欧州や米国の経験は、市場を創ることよりも、差別化した技術を育てることの重要性を教えている。

 将来を見越した産業政策がなければ、需要家が負担する電力料金のかなりの部分は、中国などの新興国に流れることになる。再生可能エネルギーの導入により電力料金と物価の上昇は避けられないだけでなく、国民が得られるものはないということになりかねないのである。

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