再生可能エネルギーによる景気浮揚は本当か?

米太陽光発電企業破綻の教訓


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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市場創造による価格競争よりも差別化技術の育成を

 固定価格買い取り制度により、ドイツやスペイン、イタリアでは、太陽光発電設備の導入が急増した。その後、電力価格の上昇と送電線網への負荷増大を恐れた各国政府は、相次いで買い取り制度を見直した。そのため、欧州の太陽光市場は急速に冷え込んだが、そこで窮したのが中国モジュールメーカーだった。

 欧州市場を当てにして増産を行っていた中国企業は大量の在庫を抱え、安値での販売を強いられることになった。報道によると、太陽光モジュールの製造コストは、中国では1W当り1.1ドル、米国では1.8ドルとされる。米国メーカーはコスト競争力のある中国メーカーの安値攻勢に対抗できず、破綻に至った。

 こうした背景を踏まえて、固定価格買い取り制度を見ると、これからの日本の太陽光導入シナリオが浮かび上がってくる。たとえば、日本でも事業用の大型太陽光発電設備の導入が急増すると思われる。買い取り価格の設定次第だが、リスクが極めて限定された有利な投資になる可能性が高い。欧州のように、異業種からの参入が相次ぐ可能性が高い。そうしたなかで、事業者はモジュールの産地より、価格に高い関心を持つと言うのが欧州市場での経験であり、日本も当然、同じ道を歩むと考えられている。

 たとえば、日本でのモジュール販売価格は1W当たり400~500円になっている。これで、1W当たり100円強で販売している中国メーカーと競争できるのだろうか。「固定価格買い取り制度を導入して市場を創れば、メーカーが育つ」という意見もあるが、それは間違いではないか。欧州や米国の経験は、市場を創ることよりも、差別化した技術を育てることの重要性を教えている。

 将来を見越した産業政策がなければ、需要家が負担する電力料金のかなりの部分は、中国などの新興国に流れることになる。再生可能エネルギーの導入により電力料金と物価の上昇は避けられないだけでなく、国民が得られるものはないということになりかねないのである。

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