再生可能エネルギーの本格導入を阻む3つの壁


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 福島第一原子力発電所の事故以来、原発に替わるエネルギーとして、風力、太陽光を中心とした再生可能エネルギーが注目を浴びている。菅直人首相は、フランスドービルで開催されたG8サミット(主要先進国首脳会議)での演説で、「太陽光発電を1000万戸に設置する」と表明した。

 再生可能エネルギーの普及を図るための政策は、震災以前にも導入されていた。太陽光発電設備の導入により生じた余剰電力を電力会社に販売できる制度は、2009年度から導入されている。電力会社は買い取り費用を電気料金に上乗せし、需要家から回収する。

 今年度の買い取り価格は、1kW時当たり42円に設定されている。東京電力の民生用、産業用の電力の平均販売価格は、1kW時当たり16円程度。つまり、太陽光発電が増えれば増えるほど、電力料金への上乗せ額、すなわち需要家の負担額は大きくなるわけである。

 G8サミットに先立ち、菅首相は、太陽光発電設備の大量導入に合わせ、太陽光発電のコストを2020年に現在の3分の1に引き下げる目標も発表した。設備費用のなかには工事費がかなりの部分を占めており、コストを3分の1に引き下げるのは簡単ではない。しかし、もしコストダウンが実現しても、それまでに導入された太陽光発電の買い取り価格は、その後10年間にわたり消費者が負担することになるため、太陽光発電の普及が大きく進めば、電気代の大きな値上げは避けられないのである。

 日本に先立ち、再生可能エネルギー由来の電力の固定価格買い取り制度を導入した欧州主要国では、相次いで買い取り価格の引き下げが行われている。長期にわたり固定価格で買い取るため、累積の買い取り額が巨額になったためである。導入が進めば進むほど、消費者の負担が級数的に増えていくことになる。

 しかも、再生可能エネルギー導入に伴う問題は、消費者が支払う電力料金への価格転嫁だけではない。バックアップの発電設備が求められることや送電能力の面でも大きな課題がある。

 バックアップ電源が必要な理由を図に示す。日照がない時間はほとんど発電ができない太陽光や、凪(一時的に風のない状態)には発電できない風力発電に対し、電力需要は発電側の事情とは関係なく生じる。したがって、再生可能エネルギーによる発電ができない時間に備え、電力需要と再生可能エネルギーによる電力供給の差を埋めるために、常に、発電が可能な電源を用意していなければ停電が発生する。

太陽光や風力への依存では、電力需要とのギャップが大きくなる

電力の総量では足りていても送れないという事実

 欧州のように国を超えた送電線網がなく、電力供給を他国から受けることができない日本では、国内にバックアップの発電設備を持つことが必須となる。その場合の大きな問題は送電線網だ。例えば東京電力管内で、再生可能エネルギーによる発電量が天候により低下した場合、近隣のどこかの発電所から電気を送る必要があるのだが、送電線の能力には限度がある。

 今回の震災では、東日本の発電所が被災し、東北電力と東京電力では電力が不足することとなったが、周波数が異なる中部電力からは、3カ所の変換所経由で103万kWしか送電できなかった。この送電能力の問題は再生可能エネルギー導入時にも、大きな障害になる。

 また、東京電力と中部電力との間では、双方向で同量の電力を送ることができるが、電力会社によっては異なるケースもある。たとえば、東北電力から東京電力へは500万kWの電力を融通できるが、東京電力から東北電力には110万kW分しか送電できない。

 再生可能エネルギーによる発電を本格的に導入する際には、大きなバックアップが必要とされる。このため、隣接する電力会社からの融通を前提としない限り、発電量の大きな変動を伴う再生可能エネルギーの大規模導入は難しい。現状では、東京電力は最大でも603万kWの電力融通しか受けられないわけで、これでは、再生可能エネルギーの大量導入を支えることは困難だ。

 再生可能エネルギーの導入に際しては、まず、電力会社間の融通量を増加させる必要がある。しかし、これは簡単ではない。融通量を増やすには高電圧の送電線が不可欠だが、建設には時間がかかる。中部電力から東京電力に、周波数変換して送電する東清水変換所の設計能力は30万kWだが、現在の送電は13.5万kWにとどまる。これは、送電線が建設できていないためだ。

 20年前に着工された275kVの高圧送電線は、いまだ工事中であり、完成は来年度の予定だ。現在は応急対応の154kVの送電線が利用されている。30万kWの変換設備は完成済みだが、送電線の能力の限界により変換設備の能力が生かされていない。

 日本では、送電線の建設は、発電所の建設より時間がかかるケースがある。再生可能エネルギーの導入には、送電線整備が欠かせない。送電線整備の検討を早急に開始すべきである。

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