クルマはどこまでエコになるか?


中部交通研究所 主席研究員

印刷用ページ

 今回は、運輸部門のなかで、特に個人利用の自動車(乗用車)に焦点を絞って、車両技術の向上による二酸化炭素(CO2)削減と技術以外での削減の可能性について議論したい。

 自動車の多くは、駆動源として内燃機関であるガソリンエンジンを利用している。エンジンは、下の図に示すように主として熱による損失のため効率が低く、一般に、燃料であるガソリンが持っているエネルギーの20%程度しか駆動軸に伝達されない。失われている熱をうまく再利用できれば、効率が飛躍的に改善されるため、研究レベルではいくつかの技術が試みられているが、いまだ実用化には至っていない。

 また、図からわかるように、アイドリングによるロスもかなりの量にのぼる。このため、信号などでの停止時のアイドリングストップは大きな効率向上につながる。これは実際にハイブリッド車でも取り入れられており、ハイブリッド化による効率向上のうち、3分の1近い寄与になっている。

 一方、駆動軸に伝達されたエネルギーは、さらに、トランスミッションなどの伝達系で失われる。タイヤに伝達されるのは駆動軸に伝えられたエネルギーの60~70%程度だ。そのエネルギーによって車はスタートし加速されるが、停止時にはブレーキによって運動エネルギーが失われて止まる。この量は駆動軸に伝えられた量から見ると3分の1程度になる。ハイブリッド車は、この停止時に失われるエネルギーを電気に変換して回収し、効率向上に利用している。

 つまり、自動車の効率は、まず駆動源の効率に大きく左右され、次にトランスミッションなどの伝達系の効率、さらに車両の形を通して空気抵抗やタイヤの摩擦抵抗に影響される。ガソリンエンジンそのものの効率化はメーカーが最大の努力を図ってきた部分であり、着実に成果を出してきた。残された改善余地は大きくないが、今後も効率化は進むと予想される。飛躍的な改善は、今、話題の電気自動車や燃料電池車への移行が考えられるが、車両価格やインフラ整備など大量普及への課題は大きく、短中期的な対策にはならない。

自動車の効率は、エンジンやアイドリングなどのロスによりそれほど高くない

自動車の効率改善はどの程度可能なのか?

 長期的な対策も含めて、将来の改善の可能性をCO2の削減量で見たのが、下の図である。欧州で人気のディーゼル車はガソリン車に比べて15~30%のCO2削減が可能である。また、ハイブリッド化は技術が多様で幅はあるが、30~50%と高い削減率が期待できる。

 長期的な対策と考えられる電気自動車や燃料電池車も削減率は高いが、いずれもそのエネルギー源に大きく依存する。電気自動車では、充電のための電気がどのようにして発電されたかに左右され、もし石炭火力が主体で発電されていれば、ハイブリッド車よりもCO2排出量が増える結果になる。同様に燃料電池車の場合は、水素を現在の主流である天然ガスからの製造に頼ると削減率は低く、また現状の日本の平均的な電気を利用した水電解で製造すれば、やはり、ハイブリッド車よりCO2排出量が増える結果になる。

 ここでは詳細の検討はしないが、バイオ燃料の使用もCO2の削減には有効である。ただ、バイオ燃料に関しては、大量に生産することになった時点で、その原料栽培の土地をどのように確保するかが大きな問題となってくる。現在の主流である食糧を原料として製造すれば、食糧との競合や価格高騰などが危惧される。また、森林のようにCO2を多く固定している場所を耕地に変換するとしたら、土地利用の変化によるCO2排出が非常に大きく、車でのバイオ燃料利用のメリットを完全に打ち消し、むしろ増加になってしまうことが懸念される。日本では、バイオ燃料を大量導入しようとすると、かなりの量を外国からの輸入に頼ることになると思われる。その際に、生産国での製造が環境破壊などの問題につながっていないかを明確にする、透明性の高い制度を作っておくことが重要である。

電気自動車、燃料電池自動車のCO2排出量はもともとのエネルギー源に大きく左右される。

自動車本体以外でも考えられる改善の可能性

 自動車利用に伴うエネルギー消費、あるいはCO2排出量は、自動車単体の効率だけでなく、それを運転する際の状況によっても大きく左右される。極端な例が、東京の渋滞した道路での走行である。平均時速がせいぜい10~20km/時で、空いている高速道路を走行する場合の数倍も燃料が必要になる。大都市域での渋滞を解消するための対策はインフラの改善も含めて多々あるが、エネルギー消費の面だけでなく、大気環境の改善の面からも非常に重要で、今後も真剣に取り組んでいく必要がある。

 また、運転者の特性によっても燃料消費量は大きく変化する。急発進や急ブレーキの抑制などのエコドライブを心がけている運転者は、平均より10~20%程度、燃料消費量が少なくなると言われている。高速走行の場合でも、100km/時で走行するか、少し落として80km/時程度で走行するかによって燃料消費量が10~20%程度変わってくる。このため、エコドライブを推奨するためのドライバー教育の重要性が、最近、欧米で見直されている。

 以上見たように、車両技術の改善による効率化、あるいはCO2排出量の少ない燃料の使用などにより、将来の運輸部門での燃料消費/CO2排出量は削減可能であるが、実際どの程度まで削減可能であろうか。例えば、車両技術の改善により車両価格が非常に高くなってしまっては、消費者の購買意欲が落ち、実際には、道路上で走る車全体の効率はあまり改善されないであろう。次回は、そのような経済性も考慮したうえで、将来の削減量を推計した例を紹介しながら、現実的な削減可能量を考えてみたい。

記事全文(PDF)