中国の「省エネルギー目標」が意味するもの


国際環境経済研究所理事長

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中国の“省エネ目標達成”の実態

 GDP単位当たりのエネルギー消費量に関して言うと、2006~2009年の4年間の実績は14.4%の減少であった。しかし、最終年度の2010年上半期はエネルギー消費量がまったく減らず、最後の6カ月間で5%強の削減を迫られることになった。

 ここで中央政府は、計画の達成に向けていろいろな“手段”を講じた。

 まず出発点(2005年)の数字が変わった。それまで、2005年のGDP当たりのエネルギー消費量(標準炭/万元)は1.22t/万元だったが、2010年夏に1.276t/万元に上方修正された。発射台が高くなったことで2006~2009年の4年間の削減実績は、14.4%から15.6%へと上昇した (ちなみに2005年の日本は0.20t/万元と6分の1以下である)。

 さらに、中央政府は地方政府に対するプレッシャーを強めた。

 河北省では9月以降、エネルギー消費の多い産業に関して規制が打ち出された。鉄鋼生産は40%の減産指示があった。また、石炭火力発電所に対する電力供給制限が打ち出され、農業生産に必要な尿素などの化学肥料等の生産が大幅に減少した。また、田舎では信号を止めたという話も聞く。

 GDP当たりのエネルギー消費量という指標は、分子がエネルギー消費量、分母はGDPである。したがって、達成のための最後の手段は、2010年のGDPの公表数字を大きくすることである。ご存知のように、2010年の中国のGDPは日本を抜いて世界第二位に躍り出た。ところが、2010年のエネルギー消費はさらに膨大だった。

 2011年2月27日、温家宝首相はインターネットによる市民対話のなかで、20%削減の省エネ目標について、「非常に困難な目標だった。しかし努力の結果、19.1%削減を達成した」と述べた。さらに、地方政府が実施した電力使用制限などに対しては、「一時しのぎのごまかしは長続きしない。今後は断固として止めさせる」と述べた。

 そして3月5日からの全人代(全国人民代表大会)では、「達成したといえる」と評価されたようだ。

 次の5カ年計画(2011~2015年)では、温暖化対策として、「GDP当たりのエネルギー消費量を16%、二酸化炭素を17%削減」することが全人代で決まった。

 中国の実行を注視したい。

参考資料
 新日鉄エンジニアリングの野宮好堯氏(北京在住)、日本鉄鋼連盟前北京事務所長の伊藤仁氏の話を参考に構成した

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