賠償額を上回る燃料費負担増が電気料金を押し上げる


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 朝日新聞は5月3日の朝刊の1面で、「原発賠償4兆円案」とのタイトルで「東電分2兆円、料金16%上げ」と報じた。東京電力の負担額が2兆円であり、これを10年間にわたって負担するために、電気料金が16%上昇するとの内容だ。

 東電の2009年度の電気料金収入は4兆5000億円ある。16%の値上げを行えば収入増は7000億円強となり、毎年の東電負担額2000億円をはるかに超える収入となる。しかし、記事では「賠償資金を確保するため16%の値上げになる見通しだ」とあるのみで、金額の整合性に関する説明はない。

 一方、同じ記事中で「火力発電の燃料費増を年間約1兆円とみている」とも報じている。この数字が正しければ、燃料費の増加は賠償額を大幅に上回ることになる。燃料費は本当に1兆円増えるのだろうか。まず、燃料費増の計算根拠を推測してみたい。

 燃料費の増加の理由は、当面、原子力発電が難しくなり、その落ち込み分を火力発電で補わなければならないからだ。

 発電が困難になる原発には二種類ある。一つは、既存の福島第一原子力発電所であり、もう一つは新設予定の原発である。福島第一原発からの2009年度の発電量は330 億kW時であった。一方、新設予定の原発は福島第一原発7,8号機、東通原発1号機の3基であり、設備能力の合計は約415万kWだ。全基が稼働する2017年には、稼働率を80%と仮定すると、発電量が290億kW時となる。

 この2種類の原発の発電分を、新増設が比較的容易な石油火力と天然ガス火力で50%ずつ代替すると、1年間に重油650万t、天然ガス410万tが必要になる。ちなみに二酸化炭素(CO2)排出量は、合わせて、年間4100万t増加する。過去、低硫黄分のA重油価格が最も高かったのは2008年秋であり、1t当たり12万円を超えていた。また同時期に、天然ガスの輸入価格も最高値の1t当たり8万円を記録している。

原発事故が電気料金に二つの影響を与える

 いくつかの国が原発の操業と新設に慎重な姿勢を示しており、各国で今後、原発に替えて火力発電の稼働率が高まることが予想される。その結果、需要が増える石油とガス価格は上昇するだろう。仮に将来の重油価格を1t当たり10万円強、天然ガス価格を7万円強と想定すると、原発停止により、東電が新たに支払う燃料費は約1兆円になり、新聞報道の数字に合う。

 原発事故により地元の人々が受けた被害には、生まれ育った土地を離れる苦痛を含めた精神的なものなど、金銭には換算できないものも含まれるが、金銭面だけで比較すると、原発停止による燃料費の負担額が賠償額を上回ることになる。

 さて、燃料費の増加分がすべて電気料金に跳ね返るわけではない。原発の停止により削減される費用もある。その費用は4000億~5000億円程度と推測される。つまり、火力発電用の燃料を新たに手当てすることにより発生する費用は、5000億~6000億円程度と想像される。

 朝日新聞が報じた「料金16%上げ」には、原発停止によるコスト増分が含まれているのかもしれない。賠償分2000億円に追加燃料費5000億円と考えると辻褄があう。逆に、16%の値上げに燃料費増加分が含まれていないのであれば、電気料金はさらに10%以上値上がりし、賠償分と合わせると1kW時当たり平均で約4円上昇する計算になる。工場が東電管内から移転を考えるほどの金額だろう。

 近々、東電から料金値上げ案の内訳に関する発表があると思うが、原発事故は電気料金に二つの影響を与えることを念頭に置き、今後のエネルギー政策を議論することが必要だ。

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