2011年5月のアーカイブ

  • 2011/05/24

    「ON」か「OFF」かの日本のリスク論

     東京電力福島第一原子力発電所からの放射性物質漏洩事故を機に、原子力発電の危険性を理由とした脱原発の考え方が勢いづいている。しかし、実質的な内容を伴った代替案は、いまだに提示されていない。ここでは「リスク」に絞って日頃考えていることを述べる。

     事故直後の枝野幸男官房長官の記者会見は、まさに日本におけるリスクの考え方を鮮明に反映したものであった。記者から『安全ですか』と聞かれ、『安全です』と答える。また、『通常レベルより濃度が高いが、直ちに健康に影響するほどではない』と答える。これでは誰も安心できない。

     原子力に限らず、従来の日本のリスク管理は安全か安全でないか、つまりONかOFFの2者択一という考え方が強い。しかし考えるまでもなく、絶対安全、すなわちリスクゼロはあり得ない。

     われわれは日頃、自動車や飛行機を利用しているが、自動車事故では年間何千人もが死亡している。また、筆者が航空保険の実務に携わっていた1970年代初頭では、ジェット機は統計上30万時間に1機墜ちていた。つまり、こうした乗り物に乗るのは「安全」ではないのである。しかし、人々はこれらを利用している。それはリスクを認識しつつも、それを利用する便益が上回ると考えるからである。

  • 2011/05/23

    東北復興へ新しい水産業のモデル構築を

     甚大な被害をもたらした東日本大震災から2カ月が経過した。福島第一原子力発電所の事故を契機に、エネルギー問題が大きくクローズアップされ、地球温暖化問題も視野に入れた今後のエネルギー需給のあり方に関する活発な議論が行われている。一方で被災地復興の観点から真っ先に考えるべきことは、東北の基幹産業の復興であり、その一つが水産業であると言える。

     私は環境(環境化学工学)を専門とし、これまで特に藻場を中心とした沿岸生態系の修復プロジェクトに産学連携で取り組んできた。このプロジェクトは、製鋼スラグと未利用バイオマス資源を有効利用する藻場再生技術の研究開発が軸となって開始され、すでに全国各地で実証試験・実証事業が行われている。

     現在では、生態系理解・生物多様性保全への研究展開、沿岸生態系修復による地球温暖化問題解決への貢献可能性の検討など、地球的規模の課題解決に向けた展開もなされている。プロジェクトの性格上、漁業関係者や水産業とのかかわりは特に深く、今回の大震災においては、沿岸漁業の復興支援活動にも携わっている。このような状況を踏まえて、産業と環境の関係性の観点から、水産業の復興と沿岸生態系修復について述べることとする。

     すでに報道などにある通り、今回の大震災では、岩手・宮城・福島の東北3県を中心に水産業は大きな被害を受けた。水産庁によると、5月11日までに、全国の水産被害額は6694億円にのぼるとされている。特に東北3県は、漁船、漁港をはじめとして壊滅的な被害を受けている。事態の深刻さは漁業生産手段が失われただけではなく、水産業の構造そのものが失われたと言える状況にある。

     水産業は、漁業従事者だけでなく、水産流通業、水産加工業、漁船具の製造・販売業、そして造船業など多くの関連業者によって成り立っている。巨大な津波は、それらの機能をすべて喪失させるほどの打撃を与えた。実際に4月下旬に訪れた被災地の漁港の状態は、それが過剰表現でないことを実感させるものであった。すべてを回復させるには、膨大な労力と時間を要することは想像に難くない。

    石巻漁港の様子(長さ652mもの上屋根のあった魚市場付近。津波被害を受け、解体・撤去が進む)
  • 2011/05/19

    COP17に向け先進国への資金要求強める新興途上国

     カンクン合意から5カ月が過ぎ、今年末の第17回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP17)に向けた動きが各国で活発になっている。なかでも、新興途上国の動きは急だ。2月最後の週末には、BASIC(ブラジル、南アフリカ、インド、中国)とアルゼンチンなどいくつかの途上国が閣僚会合を開催。この会合には、COP17開催国である南アフリカも加わったため注目を集めたが、インドからラメシュ環境森林大臣、中国の解振華国家発展改革委員会副主任、ブラジルのテイシェイラ環境大臣、南アフリカのモレワ水・環境大臣などが名を連ねた。

     合意された内容、あるいは各国から主張された内容は次の通りだ。

    1.京都議定書第二約束期間への先進国のコミットメントや、途上国への人材育成をはじめとする支援約束などの状況について、国際的なアセスメントを求める。

    2.京都議定書第二約束期間への先進国によるコミットメントは、野心的な排出削減と排出量のピークアウトにとって重要。COP17で、先進国は第二約束期間についてコミットし、法的拘束力がある新たな数値目標が第一約束期間の終了後すぐに発効するよう(約束期間にギャップがないよう)にすべきである。

    3.途上国のMRV(測定・報告・検証)措置は、先進国に適用されるものよりも煩雑にならないようにすべきである。

    4.コペンハーゲン合意では、先進国は早期資金として2010~12年の3年間で300億ドルの支援を約束したが、実際に支払われた金額は10億ドルに届いていない。資金が必要な国に供給されていないことを強く問題視する。

    5.技術移転には知的財産権問題の解決が重要(カンクン合意では一旦論点から外れていた知的財産権問題が復活)。また、技術メカニズムと資金メカニズムとの直接リンクが重要。

     これらを見てわかるように、主要途上国は先進国に、京都議定書の第二約束期間についてのコミットメントを要求しつつ、「資金を早く出せ」と迫っている。

     今や地球温暖化交渉は、環境問題ではなく南北問題、所得再分配問題となりつつある。生物多様性条約についての交渉でも同じことが起こっていたが、先進国にとって気がかりな環境問題への協力を盾に取り、先進国の資金と技術をどれだけ獲得するかが、現在の温暖化交渉の本質なのだ。

     先進国が途上国の要求に、どのように対応するのか。各国とも財政状況は最悪であり、途上国を支援したくとも支援する余裕がない。むしろ、先進国は新興途上国の経済成長の恩恵を蒙って、なんとか不況に至らないよう維持しているのが現状だ。世界全体の資金循環をどうするか。今や地球温暖化交渉は、こうしたマクロ経済・金融問題と表裏一体となっているのである。

    記事全文(PDF)

  • 2011/05/17

    中国の「省エネルギー目標」が意味するもの

     中国は極めて政治的に国家統計を使うことがある。

     たとえば、GDP(国内総生産)成長率は国家目標であり、各省の省長や共産党書記にとって勤務評定の対象である。 続きを読む

  • 2011/05/13

    日本の総力をあげ総合的な水管理システムを

     21世紀は「水」の時代と言われ、10年が経過した。上水の供給や排水処理、処理施設の管理運営などの総合的水管理市場は、2025年には100兆円規模になると試算されている。その背景には、水が得られない人口が約11億人、トイレや排水処理がないか実施されていない地域の人口が約26億人も存在している。また、循環型社会を構築するうえで、水処理分野においても二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)といった温室効果ガスの発生抑制やエネルギー回収が急務となっている。

     2008年度に下水道から排出された温室効果ガスの総量はCO2換算で674万tあり、日本の総排出量の0.5%に達している1)。こうしたなかで、小規模分散型生活排水処理システムとして活用されている浄化槽は、最小規模の5人槽で、生物化学的酸素要求量(BOD)1kgあたりのCO2排出量が8.7kgとなり、西村ら2)は人口密度が1040人/km2以下の集落では、下水道による整備よりもCO2排出量が少なくなると報告している。

     これまで、わが国の生活排水処理システムにおける低炭素化対策は、処理施設がエネルギー面で完全に自立したうえで、新エネルギーの活用とエネルギー回収、物質循環を目標とし、現在では省エネ技術の導入を中心とした施策が実施されてきた。しかし今回の震災により、さらなる省エネや節電が求められており、排水処理の分野においても、一層の省エネ技術開発が直近の課題になっている。

  • 2011/05/10

    東北経済復興と地球温暖化

     東日本大震災では、私が所属する企業も津波で被災し、現在も電力が復旧しないなか、工場の復興に向け懸命に努力している。 続きを読む

  • 2011/05/09

    賠償額を上回る燃料費負担増が電気料金を押し上げる

     朝日新聞は5月3日の朝刊の1面で、「原発賠償4兆円案」とのタイトルで「東電分2兆円、料金16%上げ」と報じた。東京電力の負担額が2兆円であり、これを10年間にわたって負担するために、電気料金が16%上昇するとの内容だ。

     東電の2009年度の電気料金収入は4兆5000億円ある。16%の値上げを行えば収入増は7000億円強となり、毎年の東電負担額2000億円をはるかに超える収入となる。しかし、記事では「賠償資金を確保するため16%の値上げになる見通しだ」とあるのみで、金額の整合性に関する説明はない。

     一方、同じ記事中で「火力発電の燃料費増を年間約1兆円とみている」とも報じている。この数字が正しければ、燃料費の増加は賠償額を大幅に上回ることになる。燃料費は本当に1兆円増えるのだろうか。まず、燃料費増の計算根拠を推測してみたい。

     燃料費の増加の理由は、当面、原子力発電が難しくなり、その落ち込み分を火力発電で補わなければならないからだ。

     発電が困難になる原発には二種類ある。一つは、既存の福島第一原子力発電所であり、もう一つは新設予定の原発である。福島第一原発からの2009年度の発電量は330 億kW時であった。一方、新設予定の原発は福島第一原発7,8号機、東通原発1号機の3基であり、設備能力の合計は約415万kWだ。全基が稼働する2017年には、稼働率を80%と仮定すると、発電量が290億kW時となる。

     この2種類の原発の発電分を、新増設が比較的容易な石油火力と天然ガス火力で50%ずつ代替すると、1年間に重油650万t、天然ガス410万tが必要になる。ちなみに二酸化炭素(CO2)排出量は、合わせて、年間4100万t増加する。過去、低硫黄分のA重油価格が最も高かったのは2008年秋であり、1t当たり12万円を超えていた。また同時期に、天然ガスの輸入価格も最高値の1t当たり8万円を記録している。