セキュリティに重点を置いたエネルギー政策への転換を


国際環境経済研究所前所長

印刷用ページ

 今回の大震災に伴って実施された「計画停電」によって、私たち日本人が最近忘れていたエネルギー安全保障という問題と真正面から向き合うこととなった。過去2度発生した石油ショックの時以来である。まず日本のエネルギーセキュリティに関する政策の歴史を振り返っておこう。

脆弱だった日本のエネルギーセキュリティ

 エネルギー資源に関して、日本の特徴はその自給率の低さにある。狭い国土には化石燃料や鉱物資源が乏しく、国家経済や国民生活を支えるために必要な資源の大半は、輸入に頼ってきた。特に第二次世界大戦後の高度経済成長期には、エネルギー種がそれまでの国内炭から輸入石油エネルギー源が移行し、自給率を一層引き下げる要因となった。

 1973年の第一次石油危機では、OPEC(石油輸出国機構)の禁輸措置によって、エネルギーの輸入が途絶するのではないかという危機感や不安感が、国民レベルで沸騰した(実際には価格は急騰したが、物理的な量の不足は生じなかったとされる)。特に、当時は発電電力量の約7割が石油火力によるものだったこともあり、輸入石油が手に入らなくなることによって、ライフラインである電気がストップするのではないかという恐怖が国民を襲った。日本のエネルギーセキュリティ政策は、この時に感じた国民的危機感がその根っこに横たわってきたと言ってよい。すべての出発点がそこにあるのだ。

 78年に第二次石油危機が訪れるに至って、日本のエネルギーセキュリティ政策の基本は、石油依存度(73年当時約77%)の引き下げと政治的に不安定な地域(特に中東)へのエネルギー供給依存度の引き下げとされた。それを実現するエネルギーセキュリティ政策の体系は、石油備蓄のような緊急時対応力強化のほか、需給両面からの中長期的施策が打ち出された。

省エネルギーと原発導入の2面作戦

 まず需要面では、経済成長と両立させるために、エネルギー総需要を抑制するのではなく、エネルギー消費原単位を改善する省エネルギー政策が基本とされた。産業、家庭、運輸部門など、全ての部門において各経済主体が省エネルギー行動に取り組むとともに、原単位が改善した製品や生産方法の導入及びエネルギー効率改善ための技術開発への研究開発投資などを、政府が政策的に支援するというものである。

 一方、供給面では、「電源構成における脱石油戦略の推進」と「エネルギー輸入先の多様化と資源自主開発の推進」が打ち出された。このうち、「電源構成における脱石油戦略の推進」のために、特に期待されたのが、原子力発電である。

 日本は唯一の被爆国として、国民の間に原子力アレルギーがあるうえ、冷戦中には野党政治勢力が原子力発電に対する反対運動を繰り広げていたため、原子力発電は政治的に争点となりやすい状況にあった。しかしながら、2度の石油危機に見舞われるなかで、停電への危機感が高まり、次第に原子力発電の必要性が国民の間に受け入れられ始めた。その結果、原子力発電は、73年当時は一般電気事業者の発電電力量のわずか約2%を占めるに過ぎなかったが、95年時点では約30%弱に達し、東日本大震災直前でも、東京電力管内で約3割を占めていた。

石油依存の軽減と調達先の多様化

 化石燃料の構成比も変わった。国際エネルギー機関(IEA)の取り決めで石油火力発電所の新設が禁止され、石油から液化天然ガスや石炭への燃料種転換が推進された。一般電気事業者の発電電力量に占める石油火力の割合は、73年に約75%だったが、98年以降は、ほぼ10%以下で推移している。

 同時に、エネルギー輸入先の多様化と資源の自主開発も進んだ。日本の原油輸入先は、輸送距離の点で有利な中東諸国が最も多かったため、常に政治的不安定性に振り回される状況であった。そうした状況から脱却するため、原油輸入先を東南アジアにも多様化する一方、石油より資源賦存が分散している石炭や天然ガスに燃料転換するよう、政策的に誘導してきた。

 しかしながら90年代に入ると、国際的な石油市場の発達と原油価格の安定化のなかで、東南アジアからの石油輸入が減少して中東依存が再び高まった。その後、豪州からの石炭輸入が増加したことによって、化石燃料全体でみると中東依存度は低下したが、それでも2008年において47%と、米国の18%やフランスの13%などと比べても、圧倒的に高い状況である。

温暖化政策に影響され始めたネルギーセキュリティ

 政府とその審議会(総合エネルギー調査会、省庁再編以降総合資源エネルギー調査会)は、67年に1回目の長期エネルギー需給見通しを含む第一次答申を提出。低廉な石油輸入によるエネルギー供給体制を基本とし、石油供給の安定等が重要な課題だと指摘した。二度の石油危機を経て、75年の第三回見通し以降は、政策的には原子力発電や石油代替エネルギーの導入促進、省エネルギーの必要性が強調された。しかし、数量目標としての「見通し」(エネルギー需給の想定)は、実勢を踏まえた自然体の見通しに近いものであった。

 90年の見通し以降は、気候変動枠組み条約の署名を背景に、地球環境問題への対応の必要性という考え方が導入され、わが国の長期的なエネルギー政策の努力目標としての性格を併せ持つようになる。このようなエネルギー政策が対象とする政策目標のカバレッジの広がりを踏まえて、2002年にエネルギー政策基本法が制定・施行された。同法は、エネルギー政策を国家の基本政策の一つと位置づけ、政府に対して状況の変化に即応して需給両面でのエネルギー関連施策を講ずるように求めたものである。

 その後は、同法に明示された「安定供給の確保」、「環境への適合」、「市場原理の活用」というエネルギー政策の3つの基本方針に則り、エネルギー基本計画が策定されるようになった。2010年6月18日に閣議決定されたエネルギー基本計画 を見ると、ここ最近のエネルギー政策論議の焦点が理解できる。それらの焦点は次の3点に要約できる。

基本計画ににじむ日本のエネルギー政策の苦しさ

 第一に、我が国の資源エネルギーの安定供給確保に対する制約が一層深刻化しているという認識である。アジアを中心に世界のエネルギー需要は急増を続けており、資源権益確保をめぐる国際競争は熾烈化している。一方で、資源国等における地政学的リスクは高まり、資源ナショナリズムは高揚している。その結果、資源エネルギー価格の乱高下も顕著となっており、今後も中長期的な価格上昇が見込まれる。また、テロや地震などのリスクは減じておらず、エネルギーの輸送・供給や原子力などについては一層の「安全」確保が求められる(このような指摘があったにもかかわらず、今次震災で原発の安全性が大きく揺らいだことは、極めて残念である。)

 第二に、地球温暖化問題の解決に向け、エネルギー政策による、より強力で包括的な対応に対する圧力が高まっていることである。2008 年から京都議定書に基づく第一約束期間が開始され、同年の北海道洞爺湖サミットでは世界全体の温室効果ガス排出量を2050 年までに少なくとも50%削減するとの目標で一致した。2009 年7月のラクイラ・サミットではこの目標を再確認し、その一部として、先進国全体で90 年比またはより最近の複数の年と比べて、2050 年までに80%またはそれ以上削減するとの目標が支持された。

 こうしたなかで日本は2009 年9月の国連気候変動首脳会合で、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提として1990 年比で2020 年までに温室効果ガスを25%削減することを表明した。その後のコペンハーゲンでの第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で成立したコペンハーゲン合意やその後のカンクン合意に基づく中期目標の登録にも、日本は同じ目標を維持している。日本の温室効果ガスの約9割はエネルギー利用から発生するため、メタンなど他の温室効果ガスの割合が比較的大きい欧州や米国に比べると、温暖化対策の中でエネルギー政策が担う役割が相対的に大きい。

 第三に、エネルギー・環境分野に対し、経済成長の牽引役としての役割が強く求められようになったことが、最近のエネルギー政策議論の一つの特徴である。2008 年のリーマンショックを契機に世界経済は歴史的な大不況に直面し、各国は産業構造・成長戦略の再構築を迫られている。多くの国が、エネルギー・環境関連の技術や製品の開発・普及により新たな市場や雇用を獲得することを国家戦略の基軸としつつある。原子力発電やスマートグリッド、省エネ技術などの分野では、各国政府の積極的関与の下、世界規模での市場争奪戦が激烈なものとなっている。日本でも、2009 年12 月に閣議決定した新成長戦略(基本方針)において、この分野の強みを生かした産業政策が志向されている(この点に関しても、原子力発電技術の輸出については見直しが行われることになるだろう)。

エネルギーセキュリティ政策と温暖化対策との齟齬

 先に指摘したエネルギー政策議論の第二のポイントでも挙げられた地球温暖化対策の本格的な取組みが、エネルギーセキュリティ対策にどのような影響を与えてきたのかに議論を絞ろう。よく言われるように、エネルギーセキュリティの改善と地球温暖化対策の政策的方向性は一致している部分も多い。例えば、省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの供給増大は、エネルギーの輸入依存度低下や輸入先の政治的不安定性による影響からの脱却につながり、温暖化対策から見てもエネルギーセキュリティの向上から見ても、適切な政策だと言える。

 しかし実際には、日本国内では両政策の間に大きなフリクションが生じている。それには2つの理由がある。

 第一は、日本政府が温暖化国際交渉のなかで実現を約束してきた温室効果ガスの削減目標が、エネルギー政策の観点からは、現実的な削減可能量と比較して厳しすぎるからである。現行の京都議定書で日本が約束した90年比6%削減は、97年の京都会議における外交的駆け引きのなかで、議長国として最後に会議をまとめるために、日本政府が現実的な実現可能性を超えて譲歩した数値目標だと国内的には受け止められている。実際、同交渉に臨んだ日本政府のポジションは90年比横ばいが基本であり、譲歩しても2.5%削減までというものだった。

 日本では、温室効果ガスの総排出量の9割がエネルギー起源のCO2であり、温室効果ガスの削減は、たとえばメタンの比率が高い国々と比較すると、経済活動への影響に直結するという特徴がある。したがって、6%削減という外交的な最終決着を、国内での追加的な削減として産業部門や家庭部門におけるエネルギー消費抑制を求めることは現実として難しく、京都議定書を批准する際に政府が立てた京都議定書目標達成計画では、1.6%分が国外からの排出権購入によって賄われるという構想に最初からなっている。

 また、2009年8月の政権交代によって新たな政権党となった民主党は、鳩山首相(当時)の構想として同年9月に「2020年に90年比25%削減」を打ち出した。それまでの自民党政権では「2020年に2005年比15%削減(90年比では8%削減)」だったので、削減幅は大きく広がった。その後のコペンハーゲン合意およびカンクン合意の下は、日本政府の中期目標は「公平かつ実効ある国際枠組みの構築」と「主要国による意欲的な目標の合意」を前提条件として、その数値目標が採用されている。

エネルギーセキュリティに対する鈍感さ

 第二の理由は、原子力と石炭火力などの化石燃料発電に対する国内の環境派の反対である。こうした環境派は、温暖化対策とエネルギーセキュリティの両立を可能とするとして、政府が推進してきた原子力オプションや二酸化炭素を多く出す石炭火力に強く反対し、代替電源として風力や太陽光などの再生可能エネルギーに期待する。今回の大きな事故で原子力発電は更なる反対運動などにさらされるだろうが、実際にはその前から、地元の反対などで政府・電力会社が思い描いていた計画のとおりには設置が進んでおらず、電力需要の伸びに対して、結果的にはLNGや石炭火力発電の拡大に頼ってきたというのが現実である。

 こうした電源の化石燃料依存の増大はもちろん温室効果ガスを増大する方に働くが、政府・電力会社の政策担当者にとってはエネルギーセキュリティの代名詞ともいえる「安定的な電力供給」を維持するためには、仕方がない選択だったといえよう。実は、震災直前まで、オイルショック以降本格化したエネルギーセキュリティ確保のためのたゆまぬ政策努力の結果、皮肉にも国民は、エネルギーセキュリティに関するリスクに対する鋭敏さを失ってしまっていたのである。エネルギー価格の時々の振れはあっても、電力やその他のエネルギーの物質的供給が途絶するのではないかという危機感は、薄れてしまっていた。

 環境と経済とエネルギー(3E)というのは、全てが密接に結びあっており、鼎立させることは政策的には極めて難しいことであるにも関わらず、一般世論的にはその実感がなく、セキュリティよりも地球環境、化石燃料(や原子力)よりも再生可能エネルギーを指向するムードが強まっていた。

エネルギーセキュリティに焦点を当てた政策見直しの必要性

 2001年に総合エネルギー調査会のエネルギーセキュリティワーキンググループが、経済産業省資源エネルギー庁に対して報告書を提出した。その報告書では、燃料種別に日本にとってのエネルギーセキュリティ寄与度を分析している。すでに10年の時を経ているが、定性的にはその分析の本質は今でも通用する。

 その報告書の結論は、①環境制約等を考慮しない場合には、石油から、原子力、石炭にシフトし、それらの構成比を高めていくことが中長期的なエネルギー供給源リスクの低減に貢献する、②また、環境制約等により石炭への大幅なシフトが困難であるとしても、さらに原子力の構成比を高めていくことや天然ガスへエネルギーシフトすることで、供給源リスクを低下させることが可能である――というものである。

 当時は、経済のグローバリゼーションを背景に国際石油市場が発達してきており、マーケットで調達可能な「一般商品」(commodity)にもなりつつあるという認識が広がりつつあった。それにもかかわらず、やはり石油は政治的戦略商品であるとの慎重な見方を捨てずに、同報告書は、上記のようなエネルギーセキュリティ戦略を提言している。

 中国その他の新興途上国は、自らの成長のために資源・エネルギーの囲い込み戦略をあらわにし、さらに中東で政治的不安定性を増している現在、ますます同報告書の提言の妥当性は一層増しているといってよい。特に原子力に大きく依存することが難しくなった今、この提言の延長線上で考えれば、石炭と天然ガスによるセキュリティの確保に努力を傾注する必要があるということだ。

 さらに2009年8月に発表された長期エネルギー需給見通しを参照しながら、震災直前時点での日本のエネルギーセキュリティ政策の骨格を見てみよう。

震災直前までのエネルギーセキュリティ政策の骨格

 長期エネルギー需給見通しでは、経済活動指標として一定のGDP成長率や人口などのマクロフレームを前提としていた。また、素材生産などエネルギー多消費型産業の生産予測や、民生・業務部門におけるエネルギー需要予想を行うためのオフィス床面積の増大予測や世帯数予測、種々の省エネ機器の普及率想定、さらに運輸部門でも旅客・貨物の輸送量予測を行うなど、セミマクロ的な要素を積み上げながらエネルギー需要予測を行っている。

 その過程では、単に自然体の予想をするのみならず、各部門で最先端技術の導入によるエネルギー効率の改善を見込んだり、省エネ製品の普及拡大を盛り込んだりして、経済全体のエネルギー原単位向上のための諸措置導入を促進するという政策的な目標も提示していくところに特徴がある。したがって、長期エネルギー需給見通しは、「見通し」ではなく、「政策目標」と言った方が正確である。

 また、供給面でも、たとえば原子力発電は2020年までに9基の新設を想定、再生可能エネルギーは太陽光、風力、バイオマスなどについてそれぞれ数値目標を設定している。これらも予想と言うより政策目標であり、一次エネルギー供給源の適切な将来構成についての数値表現を行いつつ、そこに向けての政策的誘導措置を検討する基礎となっている。

 この長期エネルギー需給見通しでは、以下のように、2020年度の見通しについて3通りのケースに分けて検討している(実際には2030年度まで分析されているが、ここでは2020年度だけを表示した)。

 現状固定ケース:現状=2005年度を基準とし、今後新たなエネルギー技術が導入されず、機器の効率が一定のまま推移し、耐用年数を迎える機器が現状レベルの機器に入れ替わっていく場合

 努力継続ケース:これまで効率改善に取り組んできた機器・設備について、その延長線上で今後とも効率改善の努力を行い、耐用年数を迎える機器と順次入れ替わる場合

 最大導入ケース:実用段階にある最先端の技術で、高コストではあるが、省エネ性能の格段の向上が見込まれる機器・設備について、国民や企業に更新を法的に強制する一歩手前のぎりぎりの政策を講じて最大限普及させることにより、劇的な改善を実現する場合

 このうち需要面では、産業部門では1990年に比べて、それぞれのケースとも若干の減ではあるが、大きな削減は見込めない。これは、これまでの省エネルギー技術の導入が大幅に進んでいることから、生産プロセスには更なる省エネ機会が残っていないことを表している。一方、民生部門や運輸部門では、これから開発される省エネ機器・設備(家電や自動車、住宅など)を、相当財政的に補助していく措置をとることによって普及させ、消費の絶対量を削減していくことを目指している。

 この需要面の見通しは、今後多くの機関で今回の震災による経済への影響が分析されていく中で、抜本的な見直しが必要となる。一般論として言えば、一旦大きく経済が落ち込むことによって、エネルギー需要も同程度落ち込むが、その後の復興需要の盛り上がりとともにエネルギー需要も回復する、というシナリオが最も自然だろう。

長期エネルギー需給見通しが示した3つのシナリオ

単位:原油換算100万t
注)「新エネルギー等」には、炉頂圧発電などの廃棄エネルギー活用が含まれる。
出典:エネルギー経済統計要覧(日本エネルギー経済研究所編、2010)

急速な脱化石エネルギー迫る、現在の温暖化政策

 供給面では、石油依存度を劇的に低下させる一方、その穴埋めを原子力や新エネルギー等に期待するという絵姿を描いている。原子力は最大導入ケースで一次エネルギー総供給のうち18%を占める(2005年度は12%)ことが想定されており、新エネルギー等も同じケースでは5%を占める(2005年度は3%)ように政策誘導されることとなっている。しかし、その一方で石炭依存度は2005年度21%から2020年度19%へと低減させ、化石燃料は天然ガスへのシフトを行う(2005年度15%から2020年度16%へと上昇)という意図が現れている。さらに2030年度では電力の石炭依存度は約10%にまで下げるシナリオとなっている。

 まさに、エネルギーセキュリティに比較して、温暖化対策への取り組みが重きをなしてきている最近の状況を反映して、エネルギー源の化石燃料離れをどう実現するかに政策の重点が移ってきていることが明白な見通しである。しかし、今後、原子力発電は現在運転中のものを維持するのが精いっぱいで、新設がすぐに見込めるものではないこと、またさまざまなトラブルによる運転停止というリスクも抱えていることから、エネルギー供給の構成として、これまでのように原子力に頼りすぎるビジョンを描くことはできない。現実として原子力の安定的拡大が見込めない今、プランBは、石炭や天然ガスの化石燃料発電所の増設である。

 再生可能エネルギーはこれから拡大の一途をたどることになるだろうが、太陽光や風力の拡大に伴って、系統安定性の確保の必要上バックアップ火力が必要となる。その点を考慮する場合にも化石燃料火力は重要な電源となってくる。もしもそれでは温室効果ガスの削減に支障が出るというのであれば、削減目標の引き下げなどを柔軟に検討すべきであろう。鳩山総理構想の1990年比で25%削減という目標は、技術的・コスト的に現実的可能性に欠けており、それがゆえにエネルギーセキュリティの議論にも悪影響が出てきてしまっているのが、日本の現状だからである。

エネルギー・電源のあり方について国民的議論を

 再生可能エネルギーに積極的といわれるドイツでさえ、温暖化対策とともに安定供給面での配慮も忘れず、石炭火力が発電量の半分を占めている。太陽光発電などへの投資は、石炭火力を維持するための補償的措置と言える。こうした政策は、やはりエネルギーセキュリティを重視する米国や中国も同じだ。

 日本の石炭火力は世界で最高効率の技術を有していることはよく知られている。日本はむしろ胸を張って石炭火力による原子力の穴埋めを進めていくべきである。また世界に先駆けて日本が活用を図ってきた天然ガスも、シェールガス採掘技術の進歩とともにより一層有力なエネルギー源となる。もちろん、これから見込まれる世界的な原子力の遅れから、化石燃料の価格は値上がりすることは避けられず、経済への負担は増加していくことを覚悟しなければならない。実は再生可能エネルギーは、化石燃料よりもコスト的には依然として不利であり、その促進が経済に一層負荷(結局は電力料金などの形で国民負担になる)をかけることになるという認識を共有していかなければ、エネルギーのベストミックスについての冷静な議論ができない。セキュリティと経済コストはどうしても相反するものだからである。そのうえ温暖化対策を考慮に入れるならば、さらに方程式を解いて最適解を導くことは難しくなるだろう。この非常時、温暖化対策や目標はこうした実情に応じたものとすべきである。

 今回の事故の原因や推移に関する徹底的な情報開示は必須だ。さらに、その情報に基づいて安全技術の抜本的見直しを進めることは当然である。しかし、震災で痛めつけられた経済が回復した暁には温暖化対策と経済の両立を再度考える必要が出てくるだろう。その際には、原子力を含めて全てのエネルギー源について、セキュリティ、温暖化、経済コストをどうバランスさせるか、また、そのためのエネルギー・電源選択はどうすべきか、今から国民全員参加で冷静に議論を始めていくべきである。

記事全文(PDF)