セキュリティに重点を置いたエネルギー政策への転換を


国際環境経済研究所前所長

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震災直前までのエネルギーセキュリティ政策の骨格

 長期エネルギー需給見通しでは、経済活動指標として一定のGDP成長率や人口などのマクロフレームを前提としていた。また、素材生産などエネルギー多消費型産業の生産予測や、民生・業務部門におけるエネルギー需要予想を行うためのオフィス床面積の増大予測や世帯数予測、種々の省エネ機器の普及率想定、さらに運輸部門でも旅客・貨物の輸送量予測を行うなど、セミマクロ的な要素を積み上げながらエネルギー需要予測を行っている。

 その過程では、単に自然体の予想をするのみならず、各部門で最先端技術の導入によるエネルギー効率の改善を見込んだり、省エネ製品の普及拡大を盛り込んだりして、経済全体のエネルギー原単位向上のための諸措置導入を促進するという政策的な目標も提示していくところに特徴がある。したがって、長期エネルギー需給見通しは、「見通し」ではなく、「政策目標」と言った方が正確である。

 また、供給面でも、たとえば原子力発電は2020年までに9基の新設を想定、再生可能エネルギーは太陽光、風力、バイオマスなどについてそれぞれ数値目標を設定している。これらも予想と言うより政策目標であり、一次エネルギー供給源の適切な将来構成についての数値表現を行いつつ、そこに向けての政策的誘導措置を検討する基礎となっている。

 この長期エネルギー需給見通しでは、以下のように、2020年度の見通しについて3通りのケースに分けて検討している(実際には2030年度まで分析されているが、ここでは2020年度だけを表示した)。

 現状固定ケース:現状=2005年度を基準とし、今後新たなエネルギー技術が導入されず、機器の効率が一定のまま推移し、耐用年数を迎える機器が現状レベルの機器に入れ替わっていく場合

 努力継続ケース:これまで効率改善に取り組んできた機器・設備について、その延長線上で今後とも効率改善の努力を行い、耐用年数を迎える機器と順次入れ替わる場合

 最大導入ケース:実用段階にある最先端の技術で、高コストではあるが、省エネ性能の格段の向上が見込まれる機器・設備について、国民や企業に更新を法的に強制する一歩手前のぎりぎりの政策を講じて最大限普及させることにより、劇的な改善を実現する場合

 このうち需要面では、産業部門では1990年に比べて、それぞれのケースとも若干の減ではあるが、大きな削減は見込めない。これは、これまでの省エネルギー技術の導入が大幅に進んでいることから、生産プロセスには更なる省エネ機会が残っていないことを表している。一方、民生部門や運輸部門では、これから開発される省エネ機器・設備(家電や自動車、住宅など)を、相当財政的に補助していく措置をとることによって普及させ、消費の絶対量を削減していくことを目指している。

 この需要面の見通しは、今後多くの機関で今回の震災による経済への影響が分析されていく中で、抜本的な見直しが必要となる。一般論として言えば、一旦大きく経済が落ち込むことによって、エネルギー需要も同程度落ち込むが、その後の復興需要の盛り上がりとともにエネルギー需要も回復する、というシナリオが最も自然だろう。

長期エネルギー需給見通しが示した3つのシナリオ

単位:原油換算100万t
注)「新エネルギー等」には、炉頂圧発電などの廃棄エネルギー活用が含まれる。
出典:エネルギー経済統計要覧(日本エネルギー経済研究所編、2010)