セキュリティに重点を置いたエネルギー政策への転換を


国際環境経済研究所前所長

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エネルギーセキュリティに対する鈍感さ

 第二の理由は、原子力と石炭火力などの化石燃料発電に対する国内の環境派の反対である。こうした環境派は、温暖化対策とエネルギーセキュリティの両立を可能とするとして、政府が推進してきた原子力オプションや二酸化炭素を多く出す石炭火力に強く反対し、代替電源として風力や太陽光などの再生可能エネルギーに期待する。今回の大きな事故で原子力発電は更なる反対運動などにさらされるだろうが、実際にはその前から、地元の反対などで政府・電力会社が思い描いていた計画のとおりには設置が進んでおらず、電力需要の伸びに対して、結果的にはLNGや石炭火力発電の拡大に頼ってきたというのが現実である。

 こうした電源の化石燃料依存の増大はもちろん温室効果ガスを増大する方に働くが、政府・電力会社の政策担当者にとってはエネルギーセキュリティの代名詞ともいえる「安定的な電力供給」を維持するためには、仕方がない選択だったといえよう。実は、震災直前まで、オイルショック以降本格化したエネルギーセキュリティ確保のためのたゆまぬ政策努力の結果、皮肉にも国民は、エネルギーセキュリティに関するリスクに対する鋭敏さを失ってしまっていたのである。エネルギー価格の時々の振れはあっても、電力やその他のエネルギーの物質的供給が途絶するのではないかという危機感は、薄れてしまっていた。

 環境と経済とエネルギー(3E)というのは、全てが密接に結びあっており、鼎立させることは政策的には極めて難しいことであるにも関わらず、一般世論的にはその実感がなく、セキュリティよりも地球環境、化石燃料(や原子力)よりも再生可能エネルギーを指向するムードが強まっていた。