セキュリティに重点を置いたエネルギー政策への転換を


国際環境経済研究所前所長

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エネルギー・電源のあり方について国民的議論を

 再生可能エネルギーに積極的といわれるドイツでさえ、温暖化対策とともに安定供給面での配慮も忘れず、石炭火力が発電量の半分を占めている。太陽光発電などへの投資は、石炭火力を維持するための補償的措置と言える。こうした政策は、やはりエネルギーセキュリティを重視する米国や中国も同じだ。

 日本の石炭火力は世界で最高効率の技術を有していることはよく知られている。日本はむしろ胸を張って石炭火力による原子力の穴埋めを進めていくべきである。また世界に先駆けて日本が活用を図ってきた天然ガスも、シェールガス採掘技術の進歩とともにより一層有力なエネルギー源となる。もちろん、これから見込まれる世界的な原子力の遅れから、化石燃料の価格は値上がりすることは避けられず、経済への負担は増加していくことを覚悟しなければならない。実は再生可能エネルギーは、化石燃料よりもコスト的には依然として不利であり、その促進が経済に一層負荷(結局は電力料金などの形で国民負担になる)をかけることになるという認識を共有していかなければ、エネルギーのベストミックスについての冷静な議論ができない。セキュリティと経済コストはどうしても相反するものだからである。そのうえ温暖化対策を考慮に入れるならば、さらに方程式を解いて最適解を導くことは難しくなるだろう。この非常時、温暖化対策や目標はこうした実情に応じたものとすべきである。

 今回の事故の原因や推移に関する徹底的な情報開示は必須だ。さらに、その情報に基づいて安全技術の抜本的見直しを進めることは当然である。しかし、震災で痛めつけられた経済が回復した暁には温暖化対策と経済の両立を再度考える必要が出てくるだろう。その際には、原子力を含めて全てのエネルギー源について、セキュリティ、温暖化、経済コストをどうバランスさせるか、また、そのためのエネルギー・電源選択はどうすべきか、今から国民全員参加で冷静に議論を始めていくべきである。

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