セキュリティに重点を置いたエネルギー政策への転換を


国際環境経済研究所前所長

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急速な脱化石エネルギー迫る、現在の温暖化政策

 供給面では、石油依存度を劇的に低下させる一方、その穴埋めを原子力や新エネルギー等に期待するという絵姿を描いている。原子力は最大導入ケースで一次エネルギー総供給のうち18%を占める(2005年度は12%)ことが想定されており、新エネルギー等も同じケースでは5%を占める(2005年度は3%)ように政策誘導されることとなっている。しかし、その一方で石炭依存度は2005年度21%から2020年度19%へと低減させ、化石燃料は天然ガスへのシフトを行う(2005年度15%から2020年度16%へと上昇)という意図が現れている。さらに2030年度では電力の石炭依存度は約10%にまで下げるシナリオとなっている。

 まさに、エネルギーセキュリティに比較して、温暖化対策への取り組みが重きをなしてきている最近の状況を反映して、エネルギー源の化石燃料離れをどう実現するかに政策の重点が移ってきていることが明白な見通しである。しかし、今後、原子力発電は現在運転中のものを維持するのが精いっぱいで、新設がすぐに見込めるものではないこと、またさまざまなトラブルによる運転停止というリスクも抱えていることから、エネルギー供給の構成として、これまでのように原子力に頼りすぎるビジョンを描くことはできない。現実として原子力の安定的拡大が見込めない今、プランBは、石炭や天然ガスの化石燃料発電所の増設である。

 再生可能エネルギーはこれから拡大の一途をたどることになるだろうが、太陽光や風力の拡大に伴って、系統安定性の確保の必要上バックアップ火力が必要となる。その点を考慮する場合にも化石燃料火力は重要な電源となってくる。もしもそれでは温室効果ガスの削減に支障が出るというのであれば、削減目標の引き下げなどを柔軟に検討すべきであろう。鳩山総理構想の1990年比で25%削減という目標は、技術的・コスト的に現実的可能性に欠けており、それがゆえにエネルギーセキュリティの議論にも悪影響が出てきてしまっているのが、日本の現状だからである。