運輸部門のエネルギー消費量抑制のカギを探る


中部交通研究所 主席研究員

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 最近、地球温暖化対策としての二酸化炭素(CO2)削減目標が話題になることが多い。2010年末には、メキシコでの気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)で、削減に向けた世界的な枠組みの話し合いが行われた。2009年9月の国連総会では、鳩山由起夫前首相により、日本の中期削減目標として「1990年比で2020年までに25%削減する」ことが表明されている。このような流れのなかで、重要なセクターの一つである運輸部門における削減の可能性についても、さまざまな場で議論されてきた。

 今回は、運輸部門全体におけるCO2排出量の現状を見たうえで、細分化した各サブセクターごとの特徴や、国・地域別の状況に差があり、世界全体が必ずしも同じ問題をかかえているわけではないことを明らかにする。また次回以降、特に自動車に焦点を当てて、削減の技術的なポテンシャル、その他の施策、そして、将来の途上国の急成長を考慮したうえでの削減の見通しについて議論したい。なお、運輸部門では、CO2以外にも二酸化硫黄(SO2)や炭素微粒子、航空機による巻雲生成など、温暖化に影響するものがあるが、ここではCO2に絞って議論する。

運輸部門のエネルギー消費量抑制に成功しつつある日本

 2008年における世界の運輸部門のエネルギー使用量は、最終消費部門のなかで28%に達し(図1)、経済成長と共に、多くの地域で着実に増加している。例外的に、日本やドイツ、フランスなど先進国の一部では、ここ数年、減少傾向にある。これは、交通需要の低下と高効率化(=燃費向上)によるもので、米国における2008年以降の減少のように、景気後退の影響だけではない。

 運輸部門のエネルギー消費の大きな特徴は、その94%が石油系燃料に依存していることである。2008年のデータでは、運輸部門のサブセクターごとの割合をみると、道路交通が最も高く74%、ついで航空11%、船舶8%、鉄道2%である。1990年から2008年にかけて、先進国では、道路交通の消費エネルギーが、年平均1.6%増加した。途上国での伸びはさらに大きく3.9%に達しており、2030年までに、世界の道路交通エネルギー消費の47%を占めることになると予測されている(現在は36%)。

 量的な視点では、道路交通が最も重要なサブセクターだが、増加率は、国際的な航空および船舶の伸びは、同じ期間に、それぞれ年平均で2.5%、2.6%と道路交通(2.3%)を上回っている。さらに、国際航空は先進国で、国際船舶は途上国で増加率がより高くなっている。将来的にも高い伸びが予測されており、次第に、その重要性が増してくると思われる。

 以上は世界全体の概観だが日本はどうか。国内を見ると、最終消費部門のなかでの運輸の比率や、運輸内の各サブセクターの比率は世界全体とほぼ同じである。ただ、90年比でみた増加率では、特に船舶の伸びが低く、またバンカー油を使う国際航空、国際船舶の伸びも世界平均あるいはOECD平均よりも、かなり低い。国内だけを見ると、運輸部門は産業部門同様、優等生と言える。

運輸部門のエネルギー使用量のうち7割以上を道路交通が占める

途上国のモータリゼーションの急進が脅威に

 運輸部門は2007年に、世界のエネルギー関連CO2排出量の23%(66億t)を排出。年間排出量は、1990年比で40%増加した。90年比の増加率は、下図に示すように最終消費部門のなかで最高である(ここでの比較では、電気使用による間接的な排出は含んでいない)。ただ、エネルギー消費の動向同様、先進国では、産業部門からの排出はほぼ横這いであり、また交通部門からの排出も日本やドイツ、フランスなどでは、ここ数年減少傾向にある。運輸のなかのサブセクターごとに見ると、道路交通は90年比で47%増、そしてバンカー油を利用する国際航空、船舶の伸びは、各々71%、62%と大きな増加となっている。

 運輸のなかで、道路交通からのCO2排出量は現在73%を占めている。そのなかで途上国の割合は2007年時点で36%であるが、IEAの予測では今後急速に増加し、2030年には46%、2050年には55%に達する。一方、航空からの排出の割合は11%であるが、将来的には大きく増大し、2050年には20%を超え、その寄与率が増大すると予測されている。

 以上のように、運輸部門からのCO2排出に関しては、現状では道路交通が最も排出割合が大きく、また、将来的にもその重要度は変わらない。特に、途上国でのモータリゼーションの急進による保有台数の増加が、エネルギー消費、CO2排出ともに、大きな脅威となる。道路交通のほかには、特に伸びの大きい航空部門が次第に無視できないサブセクターになってくる。

 国内の状況を見ると、運輸全体では、エネルギー消費、CO2排出量ともに90年比10%程度の微増にとどまっている。伸びが大きいのは航空で、エネルギー消費が25%増えている。ただ、この伸びも90年代のものであり、2000年以降は横ばい状況にある。世界のエネルギー起因のCO2排出量に占める日本の総排出量および運輸全体の排出量は、各々4.3%、0.8%で、仮にこれをゼロにしても世界の温暖化対策としてはインパクトが小さい。やはり、将来的には伸びの大きい途上国での対策が最も効果があり、効率的である。

道路交通のCO2排出量のうち途上国の割合は2007年時点で36%であるが、IEAは、今後急速に増加し2030年には46%、2050年には55%に達すると予測している。

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